橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

『私だけの東京散歩 山の手・郊外篇』

こちらは、続編。登場するのは、安部譲二、高橋洋子、渡辺えり子、戸川純、小中陽太郎、如月小春、嵐山光三郎など。葉山や熱海、鎌倉などの郊外もしくは別荘地にはあまり興味がないので、その分、読み飛ばす部分が多かったが、いい企画であることは間違いな…

『私だけの東京散歩 下町・都心篇』

一九九五年刊。もとは『週刊住宅情報』の連載とのこと。景気のいい時代には、こんな企画が成り立ったのだ。自分の住んでいる土地、あるいは思い出の地、憧れの地などを散歩するのは、春風亭小朝、高見恭子、荒俣宏、岸本加世子、村松友視、いとうせいこう、…

加藤佳一『一日乗車券で出かける東京バス散歩』

ふだん、あまりバスに乗ることがない。私鉄と地下鉄で用が足りているからだが、渋滞などあって時間が読みにくいというのも大きな理由である。しかし、東京の名所や施設を見物に出かけるのなら、いい乗り物だと思う。ただ、路線があまり頭に入っていないので…

安田武『昭和 東京・私史』

著者は一九二二年東京の巣鴨に生まれた。思想の科学研究会会長で、文筆家。本書は子ども時代から日米開戦までの、東京にまつわる思い出を綴ったものである。 印象深いのは、結核で若くして死んだ人々の思い出。とくに、幼稚園の柴崎先生、白木屋店員時代に若…

小林信彦『一少年の観た〈聖戦〉』

小林信彦は一九三二年生まれ。太平洋戦争から敗戦にかけての時期は、九歳から一二歳である。タイトルからは、その小林少年が目撃した戦時の日本を描いたもののように見えるが、実は大部分が当時観た映画にあてられている。ともかく、よく映画を観ているのに…

濱谷浩『市の音 一九三〇年代・東京』

濱谷浩は、一九一五年に生まれ、一九九九年に没した写真家。東京生まれの多くの写真家と同様、下町・下谷区車坂の生まれである。一九一三年生まれの桑原甲子雄とほぼ同時期に、同じ町で生まれたわけである。写真に民俗学的な視点を持ち込み、「日本常民の心…

松山巌『路上の症候群』

「松山巌の仕事Ⅰ/Ⅱ」という副題付きで、二〇〇一年に出版された二巻本の一冊目。著者は東京芸大の建築学科を出て、建築事務所を営んだ後、文筆業に転じた人。いちばん有名な著作は、『乱歩と東京』だろうか。そのため建築論・都市論のイメージが強いが、小…

桑原甲子雄『私の写真史』

桑原甲子雄という写真家は、その七〇年以上にもわたるキャリアを通じて、東京の姿を執拗に追いかけ続けた。何か独創的というわけではなく、ともかく継続の力を感じさせる作品群を残した。ここから何となく、インテリでも天才でもなく、職人肌の人物かと思っ…

小林信彦『日本橋バビロン』

小林信彦の三部作では、この作品だけ、途中まで読んで放置していた。改めて最初から通読。おそらく、三部作の中ではこれが最高傑作だろう。 「流される」は母方の祖父から説き起こされていたが、こちらは著者が二歳の時に亡くなった父方の祖父とその長男であ…

小林信彦『流される』

小林信彦には、戦中から戦後にかけてを中心とした自伝的作品が多い。これらには完全に小説の形をとったものもあれば、エッセイとして書かれたものもある。この作品は『東京少年』『日本橋バビロン』に続く「自伝的小説」三部作の完結編とのことで、事実を中…

川本三郎『時には漫画の話を』

久しぶりに、読書&音盤ブログを再開。といっても続くかどうか保証の限りではない。 川本三郎は漫画にも詳しいが、おそらくこれまで、漫画だけを扱った単著はなかったはず。これが初めての漫画評論集ということになる。さまざまな雑誌に書いた文章を集めたも…

新著が出ました

新著が発売されました。題して「階級都市」。東京を主要な対象とした都市論の本ですが、とくに本ブログの読者の皆さんに読んでほしいのは、第5章。港区、板橋区・練馬区、文京区、世田谷区、足立区をとりあげ、実地で歩いて格差拡大がもたらした風景の変化…

岩手の酒を飲みましょう

ジョージ・セルとクラウディオ・アラウ

この二人がニューヨーク・フィルのコンサートで共演した録音を集めた2枚組である。北米ではすでに発売されていたようだが、ようやく日本でも予約できるようになった。 曲目は、以下の通り。 Beethoven - Piano Concerto No. 1 in C major, Op. 15 (11 Novem…

「卯波」と鈴木真砂女

川本三郎の新著を読んでいて、銀座の居酒屋「卯波」のことを思い出した。かつて銀座一丁目の細い路地にあった居酒屋で、俳人の鈴木真砂女さんが営んでいた。九〇歳を超えるまで店に立ち続けていたはずである。和風シュウマイと鰯の叩き揚げが名物で、客には…

グラモフォン111周年記念ボックス vol.2

ひと月かけてvol.1を聴き終え、vol.2に取りかかる。 こちらの中身は、アルゲリッチのプロコフィエフ/ラベルの協奏曲、バーンスタインのマーラー1番、ベームのモーツァルト木管楽器協奏曲集、ブーレーズのドビュッシー、フルトヴェングラーのシューベルト9番…

グラモフォン111周年記念ボックス

グラモフォンが111周年を記念して発売したボックスセットで、なんとCD55枚組。グラモフォンの代表的な演奏者の代表的な演奏ばかり集めた超弩級のコレクションである。たとえば、アルゲリッチはショパンの前奏曲全曲、バーンスタインはウェストサイドストーリ…

前田愛『幻景の街 文学の都市を歩く』

前田愛の『都市空間のなかの文学』は、大著である上に、文学と都市それぞれのあまりにも細かな部分についての言及が多く、文学の素養のない私には読み切れない部分が多い。これにたいして本書は、著者自身の言によると前著が理論編であるのに対して実践編だ…

高杉良『生命燃ゆ』

会社の事業に命を賭ける企業戦士、というのは誉められたものではないけれど、これが理系の技術者となると、どういう訳か抵抗感が薄れる。「会社のため」というより、「産業の発展のため」、場合によっては「社会のため」という性格が多少なりとも強くなるだ…

藤木TDC『場末の酒場、一人飲み』

著者は、私の命名するところ、「ヤミ市系ルポライター」である。ヤミ市起源の飲食店街や商店街、ほとんど廃墟と化したその名残などを、執拗に追いかける。たんに眺めるだけでなく、その歴史についても資料を渉猟する。本書は、その取材・研究の成果をコンパ…

ラズウェル細木『大江戸 酒道楽』

『酒のほそ道』で知られる作者だが、この作品は江戸が舞台。酒の行商を営む大七が主人公で、江戸の酒風俗と食文化が、事細かに描き込まれている。山くじら鍋や紅葉鍋、雛祭りにいただく蛤のお吸い物、飛鳥山の花見、屋台の天ぷらなど。なかなか情報量が多く…

小林信彦『日本の喜劇人』

これは、まぎれもなく名著である。ロッパ、エノケンから書き起こし、森繁、トニー谷、フランキー堺、クレージーキャッツと書き進み、萩本欽一、たけしにまで至る喜劇・大衆演劇の昭和史は、天衣無縫、自由自在。あとがきで色川武大が「新鮮且つ鋭敏、完璧で…

大橋富雄(写真) 益子義弘・永田昌民(文・スケッチ) 『東京−変わりゆく町と人の記憶』

昭和ブームでいろんな写真集が出たが、その多くは昭和三〇年代から四〇年代を扱っていた。ところがこの本が扱うのは昭和五〇年代。私が大学生だった頃で、東京についての記憶も鮮明だ。こんな時代が、もう「歴史」として扱われるようになったのだろうか。 ペ…

日本エッセイスト・クラブ編『'10年版ベスト・エッセイ集』

日本エッセイスト・クラブが毎年、さまざまな新聞・雑誌に掲載されたエッセイから五〇編程度を選んで編むベスト・エッセイ集。今年は二次にわたる予選で一二〇編の候補作が選ばれ、最終的に五一編が掲載されている。 出版社からの掲載依頼で驚いたのだが、私…

カザルス/バッハ チェロ・ソナタ全曲

ザルツブルクでレコード店に入り、見つけて買ってきた。高校時代から愛聴していた演奏だが、LPのため、気がついてみると10年以上も手にしていない。この名盤がCDになるのは当然だが、これまで買わずにいたのである。 この演奏を初めて聞いたのは、高校二年の…

ザルツブルク音楽祭 ベルリン・フィルハーモニー コンサート

ザルツブルクの最後の夜は、ベルリン・フィルのコンサートへ。指揮は、サイモン・ラトル。前半は、ワーグナーの「パルジファル」前奏曲、R.シュトラウスの「4つの最後の歌」、後半はウェーベルンの管弦楽のための6つの小品、シェーンベルクの5つの管弦楽曲、…

ザルツブルク音楽祭 モーツァルト・マチネ

28日の昼は、モーツァルテウムで行われたモーツァルテウム管弦楽団のマチネへ。指揮は、トン・コープマン。モーツァルテウムのホールには初めて来たが、クラシックな内装がたいへん美しい。 プログラムは、交響曲1番、JCバッハを編曲した最初のピアノ協奏曲…

ザルツブルク音楽祭 コンセルトヘボウ管弦楽団コンサート

27日の夜は、客演オーケストラの目玉、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートへ。指揮は、マリス・ヤンソンスで、バルトーク、ムソルグスキー、ストラヴィンスキーのプログラムである。 バルトークの「弦・打楽器とチェレスタのための音楽」は繊細…

ザルツブルク音楽祭 ウィーン・フィル・コンサート5

27日の朝は、ウィーン・フィルのマチネーへ。指揮はベルナルト・ハイティンクで、曲はブルックナーの交響曲第5番。 世間ではよく、ブルックナーの音楽にはウイーン・フィルの音色が最適だと言う。確かに序奏が始まった最初の強奏から、ブルックナーの和音が…

ザルツブルク音楽祭 グスタフ・マーラー・ユーゲントオーケストラ コンサート

26日の夜は、GMJOのコンサートを聴きに行く。指揮は、ベルベルト・ブロムシュテット。このオーケストラは、16歳から26歳のヨーロッパ市民をメンバーとするユース・オーケストラ。未来のヨーロッパ楽団の担い手たちを集めた卓越したオーケストラで、来日公演…