橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

堀川弘通『評伝 黒澤明』

先日紹介した、小林信彦の『黒澤明という時代』が、もっとも優れた黒澤明の評伝として紹介していたのが本書。実際のところ小林信彦は、事実関係については大部分を本書に負っていて、これに自分の経験と黒澤の作品評を付け加えたといった方がいいくらいである。たしかに、面白い。時の経つのを忘れて読んでしまった。
下手な紹介を読むよりは、実際に本書を読むことをお勧めする。個人的に意外だった点を二つだけ。
黒澤が戦前の一時期、プロレタリア芸術運動に関わっていたことはよく知られているが、黒澤は堀川に、「俺は懐にピストルをしのばせ、一端のオルガナイザーのつもりでいた。完全な非合法活動だから、一度捕まったら簡単にはすまない。街頭連絡は重要な活動の一つだった」と語っていたとのこと。ここまで本格的に左翼運動に関わっていたとは意外である。
戦前の新米監督時代、助監督の堀川らを誘って、よく酒を飲みにいったという。「渋谷では『多こ春』、銀座では京橋の『酒蔵樽平』などから、まず飲み始める。酒の肴は、すべて『シナリオの構想』である」とのこと。今も銀座八丁目にある名店「樽平」は、当時銀座六丁目にあったはずだが、京橋にももう一軒あったのか。それとも、堀川の記憶違いか。いずれにしても、移転したとはいえ「樽平」が黒澤の行きつけだったとは、面白い。

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)

評伝 黒澤明 (ちくま文庫)