橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭2012 グスタフ・マーラー・ユーゲントオーケストラ

classingkenji+books2012-09-06

ザルツブルク音楽祭の二つ目のコンサートは、八月二一日、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラで、指揮はダニエレ・ガッティ。
このオーケストラは、二六歳までのヨーロッパ市民をメンバーとするユース・オーケストラで、一九八六年にクラウディオ・アバドのイニシアチブによって設立された。未来のヨーロッパ楽団の担い手たちを集めた卓越したオーケストラで、メンバーは流動的であるとはいえ、演奏技術の水準では世界有数のオーケストラとしての評価が確立している。二年前にもザルツブルクで演奏を聴いたが、そのときの印象が鮮烈だったので、今回も楽しみなコンサートである。
一曲目は、ワーグナーの「パルジファル」から前奏曲と「聖金曜日の音楽」。弦の厚みと音量はさすがだが、若さのゆえか指揮者の責任か、晦渋な曲を晦渋なままに演奏したという印象が残った。
二曲目はフランク・ピーター・ツィンメルマンの独奏で、ベルクのバイオリン協奏曲。こちらも残念ながら、音響、曲の構成ともに整理しきれない演奏だった。たとえば切り目なく演奏される第二楽章への移行も、また第三楽章におけるバッハ主題の登場も、いずれも必然性なく過ぎていってしまった。ツィンメルマンのソロは、輝きには欠けるものの、安定した好演で、最後の弱音の持続は素晴らしかった。アンコールはバッハの無伴奏から。各声部の独立性は完璧で、聴衆の不満をいくぶんかは解消しただろう。
後半は、先ずリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」組曲。こちらはダイナミックで躍動感にあふれる、素晴らしい演奏だった。最初のうち乗り切れなかったのは、重要なソロを控えたコンマスが慎重になり過ぎたからかもしれないが、最後は文句なしの盛り上がりだった。
最後は、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。意外に弦の緻密さには欠ける部分があったものの、躍動感は「薔薇の騎士」以上。特に弦の最強奏は素晴らしく、これがうねるように躍動するコーダは圧倒的。満場の喝采を浴びたのも当然だ。アンコールは、ワーグナーであることは明らかだが、それ以上は不明の曲が演奏された。
このオーケストラ、実力は文句なしだが、意外に録音が少ない。とくに日本では手に入りにくいので、滞在中に探してみることにしよう。