橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭2012 モーツァルト・マチネー6

classingkenji+books2012-09-12

モーツァルテウムでのモーツァルト・マチネーは七つのプログラムが用意されていたが、私が聞いたのは最後の二つ。この日は、ミヒャエル・ギーレンの指揮で、モーツァルト交響曲K.543とK.550を中心としたプログラムである。
現代音楽のエキスパートで、自ら作曲もするギーレンの演奏は、知的で分析的と評されることが多い。今回のモーツァルトにもそれは表れていて、曲の骨格を明確にする鮮鋭な演奏だった。プログラムの最後に置かれたK.550など、感傷や叙情性とは無縁の演奏で、不協和音を含むモーツァルトの「前衛的」表現を明確にしていた。とはいえ年輪を経たせいか、意外に柔和な表情も見せる。管弦楽のアンサンブルは緊密かつ躍動的で、この点については全力で弦楽器をリードするコンサートマスターの貢献が大きかったようだ。二曲目に演奏されたホルン協奏曲K.412は、最近モーツァルテウムの主席に就任した若きホルン奏者ゾルタン・マーツァイが好演。ギーレンの管弦楽は、この曲では聞いたことがないくらい躍動的で骨太の演奏だったが、これに対して余裕を失わずに対峙して、立派に吹ききった。
三曲目には、ゲオルク・フリードリッヒ・ハースという未知の作曲家のe finisci gia?という曲が演奏された。ちなみに題名は「もう終わる?」という意味で、ホルン協奏曲の楽譜にモーツァルトが書き込んだ言葉の1つである。なぜかこの曲だけは別の指揮者。トーン・クラスター技法のお手本のような曲だが、管楽器にはときおり甘美な旋律のような音列が現れ、聞き手を引きつける。いい曲だが、おそらく録音はあるまい。
モーツァルテウム管弦楽団は、学究的で中庸の演奏をするというイメージが強いが、ギーレンを迎えた今回の演奏は、このオーケストラが現代最高の室内オーケストラの一つであることを証明したといっていいと思う。