ザルツブルク音楽祭2012 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
今回の音楽祭では、ウイーン・フィルは五つのプログラムを演奏したが、残念ながら音楽祭の前半に集中していたため、聞くことができたのは八月二七日、第五プログラムのこの演奏会のみだった。指揮はベルナルド・ハイティンクで、曲はマレイ・ペライアをソリストに迎えてのベートーベンの第四協奏曲、そしてブルックナーの交響曲第九番。
ペライアを実演で聴くのは今回が初めて。音色が美しいが、よくある鋭利で透明な美しさではない。密度と暖かみのある音色のピアニストである。その特色は先ず、最初のソロから十分に現れていた。とくに感心したのは、左手で弾く中低音、それも弱音が美しいこと。右手で弾く華やかなパッセージの後に現れる、左手の弱音がはっとするように美しい。これは初めての経験だった。ミスタッチは少なくなかったが、満足のいく演奏だった。管弦楽は編成も小さく、どちらかというとおとなしく、ときおり室内楽的な響きを出して、ソリストのバックアップに徹していたようだ。
さて、メインのブルックナー。一楽章からして弦のうねりと金管の咆吼に圧倒され、極上の美しさを見せる木管のソロにも魅せられ、あっという間の一時間。これは、細部をどうこう言うような演奏ではない。日ごろは、ブルックナーはどちらかと言えば退屈と考えていて、九番はその中でも退屈度の高い方と思っていた私だが、曲に対する認識を改めさせられた。これはブルックナーの交響曲の中でも、もっとも激しい曲の一つだったのである。演奏終了後はブラボーの嵐かと思ったが、そうでもなくブラボーは中程度。ウィーン・フィルがブルックナーを演奏すれば現代最高の演奏になるのは当然という、要求水準の高い聴衆が多いのだろうか。日本だったら、拍手が二〇分は続くだろうという、それくらいの演奏だった。