橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭2016 ウェルザー=メスト/クリーブランド管弦楽団

classingkenji+books2016-10-10

8月19日は、ウェルザー=メストの指揮で、クリーブランド管弦楽団のコンサート。場所は、祝祭劇場の大ホール。曲目は、まずバルトークの「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」。そして休憩のあと、R.シュトラウスの「死と浄化」と「4つの最後の歌」。
バルトークは、精緻なアンサンブルをもち、硬質の響きも出せるこのオーケストラには適しているといっていい。たしかに細部まで明晰に表現された演奏ではあったのだが、どうも宜しくない。最大の問題は、メストにリズム感、とくにスラブ的リズムへの対応能力がないことだろう。第4楽章など、本来ならば火花の散るようなリズムの饗宴になってよさそうだが、淡々と流れていく。
「死と浄化」には、ジョージ・セルの指揮した名演がある。それとの比較が興味深いところだが、はっきり言って比較にならない。メストも当然聞いているはずだが、それを再現しようとか超えようというような意識は、はじめからないのだろう。セルの演奏には、ダイナミックレンジを、その物理的な特性を超えて大きく感じさせる巧みさがあるのだが、メストにはこれが欠けている。とはいえ、オーケストラは上手いし、水準を行く演奏だったとはいえよう。そしてコーダに入ったところで、ソプラノのアニヤ・ハルテロスが、しずしずと歩いて舞台に現われる。なるほど、そういう仕掛けだったのか。「死と浄化」が終わってももタクトを振り上げたまま聴衆に拍手を許さず、「4つの最後の歌」が始まった。ハルテロスは稠密な声で、この作曲家最末期の傑作を、情感豊かに歌い上げる。これは文句なしの名演だった。(2016.8.19)