橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭2018 ウィーン・フィル・コンサート

classingkenji+books2018-08-20

音楽祭の3日目は、ウィーン・フィルのコンサート。指揮は、ヘルベルト・ブロムシュテット。演目は、シベリウスブルックナーの、いずれも第4番の交響曲である。私の席は、前から3列目の右から7番目で、第2バイオリンの直下という位置。
ブロムシュテットは1917年生まれの91歳で、現役最高齢指揮者といっていいだろう。ステージに登場すると、盛大な拍手とともに歓声が上がる。聴衆の尊敬を集めていることが、よくわかる。歩き方も、また指揮ぶりも颯爽としており、年齢を感じさせない。
シベリウスは、悪い演奏とはいわないが、ウィーン・フィルの透明というよりは密度のある音色には合わないようで、いまひとつ。テンポの設定など音楽の運び方は巧みなのだが、シベリウスの演奏としては不満が残った。ウィーン・フィルには、マゼールの全集などあるにはあるものの、シベリウスの録音が少ない。それにはやはり理由があるようだ。
やはり眼目は、ブルックナーブルックナーの「楽器」としては世界最高というのが定評のウィーン・フィル。そしてブルックナーを得意とするブロムシュテットである。いい演奏になるに決まっている。スタイリッシュで知的な指揮ぶりも、見ていて楽しくなってくる。弦楽器は、強奏部では素晴らしく分厚い響きをみせ、弱音部ではコンマス以下一糸乱れぬ合奏を聴かせる。とりわけ素晴らしかったのは第4楽章で、曲の展開にしたがって、それぞれの部分の性格をくっきりと描き分け、論理整合的に積み上げていく感があった。いくつかの骨太の論理が、その展開とともに次第に撚りあわされてひとつになり、壮大な結論部へと導かれていく、思想書の名著にもたとえられようか。まじめな話、一度スコアを研究して、著書を書く参考にしようかと思ったくらいだ。終演後は場内一斉にスタンディング・オベイション。ブロムシュテットは団員一人一人をねぎらい、握手したり、立たせて拍手を受けさせたりするのだが、聴衆はただただ、ブロムシュテットを讃えていたのである。昨年は同じウィーン・フィルを指揮して7番を演奏している。おそらく来年も、また再来年も、素晴らしい演奏を聴かせてくれるのではなかろうか。(2018.8.19)