橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭2018 マウリツィオ・ポリーニ ピアノ・リサイタル

classingkenji+books2018-08-21

音楽祭の3日目は、もう1つ、ピアノのリサイタル。ポリーニの実演をザルツブルクで聴くのは、これが3回目。これまではたしか、オール・ショパンのプログラムだったのだが、今回は前半に、ブラームスの3つの間奏曲作品117と、シューマンの「オーケストラのない協奏曲」(ピアノ・ソナタ第3番)、そして後半にショパンという、いつもと違うプログラム。とくにブラームスの独奏曲は、これまでポリーニが弾いたのを聴いたことがない。
期待していたブラームスだが、はっとするような音色の美しさは、さすがポリーニ。とはいえ、とくに特徴的な演奏というわけではなく、ポリーニならではの演奏というところが感じられない。シューマンでは、技巧が冴えに冴え、スリリングなパッセージの連続で観衆を沸かせた。
さて、後半のショパン。曲は、まず作品62の2つのノクターン、次が作品44のポロネーズ、作品57の子守歌、最後が作品39のスケルツォ3番。演奏される機会の多い曲をあえて避け、ショパン好きなら知っているけれど、クラシック初心者の耳に残るほどではない曲を、緩急をつけて配するというプログラムで、それぞれの曲の性格をくっきりと弾き分けた。いずれも見事な演奏だったが、とくにスケルツォの劇的な表現は圧巻。演奏が終わるとともに、多くの観客がすっと立ち上がって歓声を送った。アンコールは、まず作品25-11のエチュード、そして最後は誰もが満足するバラード第1番でしめくくり。
ポリーニも、もう76歳。2年前にも気になったのだが、歩く姿がやや猫背気味。足取りも、しっかりしているとはいいがたい。そして、メインプログラムでもいくつかミスタッチがあり、ポリーニも「普通の一流ピアリスト」並みにはミスタッチをするようになったようだ。アンコールのエチュードで、最後の和音を盛大に外したのには驚いた。完璧主義者の彼のことだから、まだ十分弾けるのに引退するなどと言い出さないか、心配になる。最後のバラードは、現代最高の演奏だったといっていいだろう。まだまだ活躍してほしいものである。(2018.8.19)