橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

朝日新聞社編『カイシャ大国』



 1994年から95年にかけて、朝日新聞は「戦後50年」という連載記事を掲載し、95年に全5巻の文庫本として出版したが、その3巻目にあたるのが、この本。戦時下の家族手当の導入から始まり、電産型賃金に至る日本的な賃金体系の成立から始まって、「会社人間」の誕生から変質までを扱っている。

 気になる記述がある。

 「戦後社会は、サラリーマン化の時代だった。……。企業別の労働組合は事務職員との身分的区別をなくし、そのころから、工場労働者も会社重役も自分を指して『サラリーマン』と称するようになった。」(36ページ)。そして、この呼び方が現在(95年時点)まで続いているというのだが(200ページ)、果たしてそうだろうか。

 時期は特定できないのだが、実際には低成長に入った頃から、サラリーマンという言葉のニュアンスは、ホワイトカラー労働者だけを指す方向に変化したはずである。象徴的なできごとは、1983年の「サラリーマン新党」結成だろう。これは、自民党にもブルーカラー中心の労働組合にも代表されない民間ホワイトカラーの結集を目指していたはずで、都市新中間階級が独自の投票行動を示しはじめたことを象徴していた。要検討の重要な問題である。