橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

川本三郎『今日はお墓参り』

田中絹代、有吉佐和子、成瀬巳喜男、長谷川利行、森雅之、芝木好子など、昭和文化を彩った十八人を取り上げ、その墓を訪問することを縦糸に、それぞれの短い評伝を一冊の書にまとめ上げるという、何とも心憎い企画である。 川本三郎の著書を読むときにはいつ…

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して…

不破哲三『マルクスは生きている』

少し話題になっている本である。読んでみると、「共産党も少し変わったな」と思わせる部分と、「やっぱり共産党は変わらないな」という部分がある。 変わったなと思うのは、まず恐慌に関する過少消費説と過剰生産説を組み合わせようとしているところ。しかも…

村瀬洋一・高田洋・廣瀬毅士編『SPSSによる多変量解析』

SPSSとは、Statistical Package fot Social Scienceの略で、統計ソフトの商品名。社会学ではスタンダードな存在で、利用者が多い。ところが、いい解説書が少ない。初歩的すぎて、すぐに役に立たなくなったり、逆に高度すぎて文化系人間には理解不能。心理学…

蜂巣敦・山本真人『殺人現場を歩く』

この本の分類は難しいが、都市論に入れておこう。東京および周辺で起こった殺人事件を取り上げて、その現場を淡々と描いていく。 犯罪そのものについての記述は、多くの場合、最低限に抑えられていて、この犯罪が起こった現場や、周辺の街の現況を描くことに…

古川緑波「ロッパの悲食記」

古川ロッパ(緑波)は、戦前から戦後にかけて、エノケン(榎本健一)と並び称せられた喜劇役者。しかし、エノケンが生粋の役者だったのに対して、ロッパは華族出身のインテリで、演劇・映画評論なども手がけ、著書もいくつかある。膨大な日記を残しており、これ…

落希一郎『僕がワイナリーを作った理由』

新潟市の西、かつて巻町といった場所に、カーブ・ドッチというワイナリーがある。落さんのカーブだから、カーブ・ド・オチ。著者は創業社長である。ワイナリーには、レストランやホール、温泉付きの宿泊施設があり、地元客だけでなく東京などからやってくる…

ヤナーチェク「シンフォニエッタ」

このCDが売れているらしい。ジョージ・セル指揮/クリーブランド管弦楽団の演奏である。自称「日本ジョージ・セル協会事務局長」の私としては、たいへん喜ばしい。 売れた原因は、村上春樹の新作に登場したこと。1990年にCD化されてから売れた総数が6000枚だ…

増田悦佐『東京「進化」論』

東京のさまざまな地域を取り上げて、その成り立ちや現在を語るという、この手の出版物はかなりの数に上る。しかし本書は、2つの点でかなりユニークだ。 まず、取り上げられている街の数が多い。普通この手の本では、主要な盛り場と、下町を中心に歴史的・文…

食楽責任編集『厳選!旨い居酒屋250店』

雑誌『食楽』の別冊で、創刊からの4年間に取材した居酒屋を厳選して集めたもの。正統派の居酒屋料理を出す風格ある居酒屋を中心に、郷土料理系、海戦料理系、銘酒系などを加えたラインナップで、全体にグレードはやや高め。その意味では『古典酒場』などとは…

吉見俊哉『ポスト戦後社会』

岩波新書の『シリーズ日本近現代史』全9巻の最終巻にあたる一冊。ここでポスト戦後社会というのは、著者によると、高度成長の終わった1970年代後半以降の社会のことである。70年代初めまでは、アジア規模でみるならいまだ「戦時」であり、日本も総力戦体制の…

共同通信社編『東京 あの時ここで』

「昭和戦後史の現場」という副題がつく。政治はもちろんのこと、犯罪や事件・災害、スポーツや芸能、建設工事、イベントなど広い範囲のできごとを、東京各所の現場に即して振り返っていくというもの。 よくありそうな企画なのだが、独自色もある。もともと共同…

阿刀田高「松本清張を推理する」

阿刀田高は「松本清張小説セレクション」全36巻を編集しているくらいだから、その作品を熟知していることは間違いない。本書は新書サイズの作品論なのだが、タイトルに「推理する」とある通り、作品の成立に至った過程や、清張の意図についての推理があちこ…

小林信彦『東京散歩 昭和幻想』

小林信彦は仕事の幅の広い人で、小説(しかもユーモア小説と純文学にまたがる)、大衆芸術論・芸能論、エッセイと各分野に多数の著作がある。しかもエッセイの中には、東京論と分類できる一連の著作があり、これを一つの分野とみることもできる。 この本は、複…

猪野健治『やくざ親分伝』

著者は、やくざに関する取材と研究では第一人者といっていいフリー・ジャーナリスト。多数の著作があるが、本書は日本の戦後史を彩った何人かの親分たちに焦点を当て、その生涯と人間像を描き出したもの。とくに、新橋の松田義一、新宿の小津喜之助、浅草の…

鹿島茂「平成ジャングル探検」

前著『居酒屋ほろ酔い考現学』を書いていたとき、新橋駅前のヤミ市を再開発したビルのことを調べていて、鹿島茂が雑誌に書いた記事に行き当たった。博覧強記でもあり、しかもちゃんと取材して当事者の証言もとるという見事なもので、連載の続きも読みたいと…