橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2012-01-01から1年間の記事一覧

ザルツブルク音楽祭2012 モーツァルト・マチネー7

音楽祭の最後は、モーツァルテウムでのモーツァルト・マチネーの最後のプログラム。指揮はマルク・ミンコフスキーで、曲はリンツ交響曲とムソルグスキーの「モーツァルトとサリエリ」。 まず「リンツ」の演奏が素晴らしかった。生気溢れる演奏で、オーケスト…

ザルツブルク音楽祭2012 コンセルトヘボウ管弦楽団

八月三一日は、コンセルトヘボウ管弦楽団。今回の音楽祭では、もっとも期待していたコンサートである。いちばん値段の高いカテゴリーの席にしたところ、前から四列目のほぼ中央というポジションだった。指揮はもちろん、マリス・ヤンソンス。 一曲目は、バル…

ザルツブルク音楽祭2012 ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

八月三〇日は、ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサート。指揮はリッカルド・シャイー。実物は初めて見たが、いかにも陽気なイタリア男といった雰囲気である。曲は、マーラーの交響曲第六番。 一楽章は冒頭の弦楽合奏からして、大音量で緊張感があ…

ザルツブルク音楽祭2012 クリーブランド管弦楽団2

八月二九日は、クリーブランド管弦楽団のコンサート二日目。最初は「わが祖国」の終わりの二曲。昨晩は聴衆を落胆させたメストだが、今日の演奏ではテンポ設定も妥当で、音楽の流れにも問題はなく、金管も適度に鳴っていて、まずまずの演奏だった。 二曲目は…

ザルツブルク音楽祭2012 クリーブランド管弦楽団1

今回の音楽祭では、クリーブランド管弦楽団が二回のコンサートを行った。プログラムは連続していて、スメタナの「わが祖国」を二夜に分けて演奏し、その前後にルトスワフスキの曲を配置、最後はショスタコーヴィチの交響曲第六番という、変則的な編成。観客…

ザルツブルク音楽祭2012 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

今回の音楽祭では、ウイーン・フィルは五つのプログラムを演奏したが、残念ながら音楽祭の前半に集中していたため、聞くことができたのは八月二七日、第五プログラムのこの演奏会のみだった。指揮はベルナルド・ハイティンクで、曲はマレイ・ペライアをソリ…

ザルツブルク音楽祭2012 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

いつも音楽祭の最後の方に一回だけあるベルリン・フィルのコンサートである。指揮は、もちろんサイモン・ラトル。曲は、前半がヤヒム・ブロンフマンをソリストに迎えてブラームスピアノ協奏曲第二番。後半はルトスワフスキの交響曲第三番。 まずブラームス。…

ザルツブルク音楽祭2012 モーツァルト・マチネー6

モーツァルテウムでのモーツァルト・マチネーは七つのプログラムが用意されていたが、私が聞いたのは最後の二つ。この日は、ミヒャエル・ギーレンの指揮で、モーツァルトの交響曲K.543とK.550を中心としたプログラムである。 現代音楽のエキスパートで、自ら…

ザルツブルク音楽祭2012 ラトル/コリンズの「カルメン」

今年のザルツブルク音楽祭、「魔笛」に引き続いて八月二五日に聞いた二つ目のオペラは「カルメン」。演奏は、サイモン・ラトル指揮のウィーフィルとウィーン国立歌劇場、演出は英国人のアレッタ・コリンズ。人気の公演だったらしく、終了後にたまたまビアレ…

ザルツブルク音楽祭2012 グスタフ・マーラー・ユーゲントオーケストラ

ザルツブルク音楽祭の二つ目のコンサートは、八月二一日、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラで、指揮はダニエレ・ガッティ。 このオーケストラは、二六歳までのヨーロッパ市民をメンバーとするユース・オーケストラで、一九八六年にクラウディオ…

ザルツブルク音楽祭2012 アーノンクール/ヘルツォークの「魔笛」

ザルツブルク音楽祭、最初に聴いたのは八月一九日の「魔笛」。演出はヤンス・ダニエル・ヘルツォーク。演奏はニコラス・アーノンクール指揮のウィーン・コンツェルトゥス・ムジクス他である。年齢からいって、アーノンクールの「魔笛」は、これが最後ではな…

ザルツブルク音楽祭2012

八月後半から九月初めにかけて、ザルツブルク音楽祭に行ってきた。聴いたコンサートは、オペラが「魔笛」「カルメン」、モーツァルテウムで開かれたモーツァルト・マチネーが二回、そしてOrchesterfinaleと題された一連のコンサートから、プラハに行っていて…

堀川弘通『評伝 黒澤明』

先日紹介した、小林信彦の『黒澤明という時代』が、もっとも優れた黒澤明の評伝として紹介していたのが本書。実際のところ小林信彦は、事実関係については大部分を本書に負っていて、これに自分の経験と黒澤の作品評を付け加えたといった方がいいくらいであ…

『東京人』2012年8月号 特集「東京地形散歩」

NHKの人気番組「ブラタモリ」は、古地図とともに高低差に注目した街歩きが新鮮で、人気を集めたようだが、実は地形と坂道に注目するのは正統派街歩きの手法であり、特に新しいわけではない。そこで、まえまえから地形に注目した東京歩きを実践してきた人…

小林信彦『黒澤明という時代』

今年の三月に文春文庫から出たが、原著は二〇〇九年。黒澤明の全作品を同時代に観た著者が、自分史と戦後史を重ね合わせながら、これら全作品を論じていく。ちなみに最初の作品である「姿三四郎」を観たのは、一〇歳の時だという。著者は笠原和夫を引きなが…

『銀座と戦争』

平和博物館を創る会という団体が編集した写真集。一九三七年から一九四九年に撮影された銀座および周辺の写真が、三六四枚収録されている。冒頭に出てくるのは、南京制圧の戦勝記念パレード。市民は、屈託のない喜びようである。戦時色が強まり、服部時計店…

『私だけの東京散歩 山の手・郊外篇』

こちらは、続編。登場するのは、安部譲二、高橋洋子、渡辺えり子、戸川純、小中陽太郎、如月小春、嵐山光三郎など。葉山や熱海、鎌倉などの郊外もしくは別荘地にはあまり興味がないので、その分、読み飛ばす部分が多かったが、いい企画であることは間違いな…

『私だけの東京散歩 下町・都心篇』

一九九五年刊。もとは『週刊住宅情報』の連載とのこと。景気のいい時代には、こんな企画が成り立ったのだ。自分の住んでいる土地、あるいは思い出の地、憧れの地などを散歩するのは、春風亭小朝、高見恭子、荒俣宏、岸本加世子、村松友視、いとうせいこう、…

加藤佳一『一日乗車券で出かける東京バス散歩』

ふだん、あまりバスに乗ることがない。私鉄と地下鉄で用が足りているからだが、渋滞などあって時間が読みにくいというのも大きな理由である。しかし、東京の名所や施設を見物に出かけるのなら、いい乗り物だと思う。ただ、路線があまり頭に入っていないので…

安田武『昭和 東京・私史』

著者は一九二二年東京の巣鴨に生まれた。思想の科学研究会会長で、文筆家。本書は子ども時代から日米開戦までの、東京にまつわる思い出を綴ったものである。 印象深いのは、結核で若くして死んだ人々の思い出。とくに、幼稚園の柴崎先生、白木屋店員時代に若…

小林信彦『一少年の観た〈聖戦〉』

小林信彦は一九三二年生まれ。太平洋戦争から敗戦にかけての時期は、九歳から一二歳である。タイトルからは、その小林少年が目撃した戦時の日本を描いたもののように見えるが、実は大部分が当時観た映画にあてられている。ともかく、よく映画を観ているのに…

濱谷浩『市の音 一九三〇年代・東京』

濱谷浩は、一九一五年に生まれ、一九九九年に没した写真家。東京生まれの多くの写真家と同様、下町・下谷区車坂の生まれである。一九一三年生まれの桑原甲子雄とほぼ同時期に、同じ町で生まれたわけである。写真に民俗学的な視点を持ち込み、「日本常民の心…

松山巌『路上の症候群』

「松山巌の仕事Ⅰ/Ⅱ」という副題付きで、二〇〇一年に出版された二巻本の一冊目。著者は東京芸大の建築学科を出て、建築事務所を営んだ後、文筆業に転じた人。いちばん有名な著作は、『乱歩と東京』だろうか。そのため建築論・都市論のイメージが強いが、小…

桑原甲子雄『私の写真史』

桑原甲子雄という写真家は、その七〇年以上にもわたるキャリアを通じて、東京の姿を執拗に追いかけ続けた。何か独創的というわけではなく、ともかく継続の力を感じさせる作品群を残した。ここから何となく、インテリでも天才でもなく、職人肌の人物かと思っ…

小林信彦『日本橋バビロン』

小林信彦の三部作では、この作品だけ、途中まで読んで放置していた。改めて最初から通読。おそらく、三部作の中ではこれが最高傑作だろう。 「流される」は母方の祖父から説き起こされていたが、こちらは著者が二歳の時に亡くなった父方の祖父とその長男であ…

小林信彦『流される』

小林信彦には、戦中から戦後にかけてを中心とした自伝的作品が多い。これらには完全に小説の形をとったものもあれば、エッセイとして書かれたものもある。この作品は『東京少年』『日本橋バビロン』に続く「自伝的小説」三部作の完結編とのことで、事実を中…

川本三郎『時には漫画の話を』

久しぶりに、読書&音盤ブログを再開。といっても続くかどうか保証の限りではない。 川本三郎は漫画にも詳しいが、おそらくこれまで、漫画だけを扱った単著はなかったはず。これが初めての漫画評論集ということになる。さまざまな雑誌に書いた文章を集めたも…

新著が出ました

新著が発売されました。題して「階級都市」。東京を主要な対象とした都市論の本ですが、とくに本ブログの読者の皆さんに読んでほしいのは、第5章。港区、板橋区・練馬区、文京区、世田谷区、足立区をとりあげ、実地で歩いて格差拡大がもたらした風景の変化…