橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

グラモフォン111周年記念ボックス vol.2

ひと月かけてvol.1を聴き終え、vol.2に取りかかる。 こちらの中身は、アルゲリッチのプロコフィエフ/ラベルの協奏曲、バーンスタインのマーラー1番、ベームのモーツァルト木管楽器協奏曲集、ブーレーズのドビュッシー、フルトヴェングラーのシューベルト9番…

グラモフォン111周年記念ボックス

グラモフォンが111周年を記念して発売したボックスセットで、なんとCD55枚組。グラモフォンの代表的な演奏者の代表的な演奏ばかり集めた超弩級のコレクションである。たとえば、アルゲリッチはショパンの前奏曲全曲、バーンスタインはウェストサイドストーリ…

前田愛『幻景の街 文学の都市を歩く』

前田愛の『都市空間のなかの文学』は、大著である上に、文学と都市それぞれのあまりにも細かな部分についての言及が多く、文学の素養のない私には読み切れない部分が多い。これにたいして本書は、著者自身の言によると前著が理論編であるのに対して実践編だ…

高杉良『生命燃ゆ』

会社の事業に命を賭ける企業戦士、というのは誉められたものではないけれど、これが理系の技術者となると、どういう訳か抵抗感が薄れる。「会社のため」というより、「産業の発展のため」、場合によっては「社会のため」という性格が多少なりとも強くなるだ…

藤木TDC『場末の酒場、一人飲み』

著者は、私の命名するところ、「ヤミ市系ルポライター」である。ヤミ市起源の飲食店街や商店街、ほとんど廃墟と化したその名残などを、執拗に追いかける。たんに眺めるだけでなく、その歴史についても資料を渉猟する。本書は、その取材・研究の成果をコンパ…

ラズウェル細木『大江戸 酒道楽』

『酒のほそ道』で知られる作者だが、この作品は江戸が舞台。酒の行商を営む大七が主人公で、江戸の酒風俗と食文化が、事細かに描き込まれている。山くじら鍋や紅葉鍋、雛祭りにいただく蛤のお吸い物、飛鳥山の花見、屋台の天ぷらなど。なかなか情報量が多く…

小林信彦『日本の喜劇人』

これは、まぎれもなく名著である。ロッパ、エノケンから書き起こし、森繁、トニー谷、フランキー堺、クレージーキャッツと書き進み、萩本欽一、たけしにまで至る喜劇・大衆演劇の昭和史は、天衣無縫、自由自在。あとがきで色川武大が「新鮮且つ鋭敏、完璧で…

大橋富雄(写真) 益子義弘・永田昌民(文・スケッチ) 『東京−変わりゆく町と人の記憶』

昭和ブームでいろんな写真集が出たが、その多くは昭和三〇年代から四〇年代を扱っていた。ところがこの本が扱うのは昭和五〇年代。私が大学生だった頃で、東京についての記憶も鮮明だ。こんな時代が、もう「歴史」として扱われるようになったのだろうか。 ペ…

日本エッセイスト・クラブ編『'10年版ベスト・エッセイ集』

日本エッセイスト・クラブが毎年、さまざまな新聞・雑誌に掲載されたエッセイから五〇編程度を選んで編むベスト・エッセイ集。今年は二次にわたる予選で一二〇編の候補作が選ばれ、最終的に五一編が掲載されている。 出版社からの掲載依頼で驚いたのだが、私…

カザルス/バッハ チェロ・ソナタ全曲

ザルツブルクでレコード店に入り、見つけて買ってきた。高校時代から愛聴していた演奏だが、LPのため、気がついてみると10年以上も手にしていない。この名盤がCDになるのは当然だが、これまで買わずにいたのである。 この演奏を初めて聞いたのは、高校二年の…

ザルツブルク音楽祭 ベルリン・フィルハーモニー コンサート

ザルツブルクの最後の夜は、ベルリン・フィルのコンサートへ。指揮は、サイモン・ラトル。前半は、ワーグナーの「パルジファル」前奏曲、R.シュトラウスの「4つの最後の歌」、後半はウェーベルンの管弦楽のための6つの小品、シェーンベルクの5つの管弦楽曲、…

ザルツブルク音楽祭 モーツァルト・マチネ

28日の昼は、モーツァルテウムで行われたモーツァルテウム管弦楽団のマチネへ。指揮は、トン・コープマン。モーツァルテウムのホールには初めて来たが、クラシックな内装がたいへん美しい。 プログラムは、交響曲1番、JCバッハを編曲した最初のピアノ協奏曲…

ザルツブルク音楽祭 コンセルトヘボウ管弦楽団コンサート

27日の夜は、客演オーケストラの目玉、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートへ。指揮は、マリス・ヤンソンスで、バルトーク、ムソルグスキー、ストラヴィンスキーのプログラムである。 バルトークの「弦・打楽器とチェレスタのための音楽」は繊細…

ザルツブルク音楽祭 ウィーン・フィル・コンサート5

27日の朝は、ウィーン・フィルのマチネーへ。指揮はベルナルト・ハイティンクで、曲はブルックナーの交響曲第5番。 世間ではよく、ブルックナーの音楽にはウイーン・フィルの音色が最適だと言う。確かに序奏が始まった最初の強奏から、ブルックナーの和音が…

ザルツブルク音楽祭 グスタフ・マーラー・ユーゲントオーケストラ コンサート

26日の夜は、GMJOのコンサートを聴きに行く。指揮は、ベルベルト・ブロムシュテット。このオーケストラは、16歳から26歳のヨーロッパ市民をメンバーとするユース・オーケストラ。未来のヨーロッパ楽団の担い手たちを集めた卓越したオーケストラで、来日公演…

ザルツブルク音楽祭 歌劇「ドン・ジョバンニ」

25日の夜は、モーツァルト・ハウスへオペラを見に行く。これは、今回のメイン・イベントの一つと言っていいだろうか。2年前にも同じ演出で上演されているから、音楽祭にとって新しい出来事というわけではないが、聴衆にとってはもっとも惹きつけられるプロ…

ザルツブルク音楽祭 マウリツィオ・ポリーニ ソロ・コンサート

次に聴いたのは、同じ日の夜のソロ・コンサート。ポリーニの実演を聴くのは、数年前の東京に続いて2回目である。事前の発表では前奏曲全曲と練習曲作品25全曲となっていたが、練習曲は抜粋となり、夜想曲2曲とスケルツォが加わった。こういう変更は、大歓迎…

ザルツブルク音楽祭 ウィーン・フィル・コンサート4

最初に聞いたのは、22日午前11時からのコンサートで、指揮はクリストフ・エッシェンバッハ。この人を実物で見たのは、はじめてだ。風貌といい、指揮ぶりといい、また詰め襟の服装といい、井上道義そっくりである。曲は、シューマンの珍しい曲3曲、ウォルフ…

ザルツブルク音楽祭2010

8月21日に、ウィーン経由でザルツブルクへ。22日から29日まで、ザルツブルク音楽祭終盤のコンサートを聴くためである。この音楽祭を訪れるのは、一昨年に続いて2回目だ。 ザルツブルクの人口は約20万人だが、この時期の音楽祭のチケット発行枚数が、これとほ…

斎藤美奈子『文学的商品学』

何度も書くが、私が逆立ちしてもかなわないと思っている書き手の一人が、斎藤美奈子。博識で毒舌。才気走った文体。毒舌以外、とても太刀打ちできない。本書は、この著者としては久しぶりという文芸評論だが、タイトルにある通り、「商品」に着目している。…

高見順『敗戦日記』

高見順は膨大な量の日記を残したが、このうち1941年1月から51年5月までの日記が『高見順日記』全8巻9冊として刊行されている。さらにこのうち、1945年の分を編集したのが、本書。元の日記が、この版では大幅に省略されている。途中に挟み込まれた新聞・雑誌…

松田奈緒子『スラム団地』

団地つながりで、マンガを一冊。福岡の団地で子ども時代を過ごした著者が、当時の思い出を綴ったコミックエッセイである。時代は一九七〇年代としか書かれておらず、著者の年齢も定かでないため、いつの出来事か正確にはわからない。しかし、小学校六年のク…

原武史・重松清『団地の時代』

都市や住宅と思想史を結びつける「空間政治学」を構想し、多くの成果を上げつつあるのが、原武史。対談の相手は、都市に生きる人々を温かい目で描き、団地を舞台とする作品も多い重松清。名コンビである。原の博識が、重松の柔軟な発想によって、絹糸のよう…

大橋隆『下町讃歌』

著者とは、近所の銭湯風カフェ「さばのゆ」で会った。その場で奨められて買ったのが、この本。帯に「京都生まれが東京の下町を好きになるとは珍しく、新鮮。しかも下町の魅力は居酒屋と銭湯にありというのだから、、うれしいではないか」と、川本三郎の推薦…

白波瀬佐和子『生き方の不平等』

最近、このブログの更新が滞っていた。読書していないわけではないのだが、紹介しても読みたいと思う人がいないと思われる古い本や、必要な部分だけ読めばすむ本、あるいは紹介する気の起こらないような本ばかりだった。久しぶりに、新刊で紹介するにふさわ…

海野弘『東京風景史の人々』

著者は、近代都市文化史の第一人者といっていいだろう。原著は1988年で、長い間絶版だったが、少し前に文庫化された。税込み1100円という値段だが、その価値はある。 大まかにいえば、前半は個々の画家についての評論で、後半は多彩なテーマを取り上げたエッ…

田中哲男編著『焦土からの出発』

これも『TOKYO異形』と同じく、東京新聞の好企画。単に、戦争直後の記録写真を集めたというものではなく、ドラマがある。新聞社所蔵のもののほか、米空軍の元写真偵察部員が庶民を撮影し、のちに中部大学に託した写真、市民が所蔵していた写真などが多数収め…

森まゆみ『東京ひがし案内』

東京の山の手と下町の境界に位置する谷中・根津・千駄木を拠点とした地域雑誌『谷根千』を手がけ、エッセイストとして活躍する森まゆみさんの新著。文庫オリジナルの企画である。「谷根千」と、その周辺の水道橋・お茶の水・湯島・本郷・上野・白山・春日な…

水木しげる(原作・柳田國男)『水木しげるの遠野物語』

『遠野物語』は、民俗学の確立者としての柳田國男の名声、そして『共同幻想論』における吉本隆明の晦渋な読解の影響で、気軽に読むことが許されないようなイメージがないではない。ところが水木しげるは、これを完全に消化して、独自の世界にまとめ上げた。…

東浩紀・北田暁大編『思想地図vol.5 社会の批評』

人気のシリーズ第5弾で、今回は社会学者が中心。私は「東京の政治学/社会学」と題して、原武史さん、北田暁大さんと対談しています。団地の政治的意味、東京内部の格差の動向などについて論じました。普通の選書2冊分のボリュームで、1400円。お買い得です…