橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』

原著は1962年。解説で秋山駿が著者のことを「当代きっての風俗画家」と評しているが、まさにその通りで、昭和30年代のサラリーマンの生態を見事に活写している。 たとえば、平社員と課長はどこが違うかと問を立て、「収入?ご冗談でしょう」と前置きした上で…

湯浅誠『反貧困』

著者は『貧困襲来』という著書でも知られるが、反貧困運動の最前線に立ち続けている人物。私より10歳ほど年下だが、心から尊敬できる数少ない人物の1人である。 実践家であるだけではない。大学院の博士課程まで出た経歴を持ち、「貧困ビジネス」「5重の排除…

コリン・ジョイス『「ニッポン社会」入門』

1992年から日本に住むイギリス人ジャーナリストによる、抱腹絶倒の日本論。持ち前のユーモアセンスと豊富な日本体験がもたらした、傑作エッセイである。 日本人もなかなか気づかない洞察もあり、たとえば日本語の男言葉と女言葉について「外国の女優の吹き替…

『外食産業統計資料集2008年版』

図書館にあればいいのだが、ここまでマイナーな統計になると手近な図書館にはない。しかたなく、研究費で買った。 さまざまな官庁統計、シンクタンクや民間企業などが行った調査結果から、外食産業に関する数値を集めたもので、B5版627頁のボリューム。いま…

森まゆみ『懐かしの昭和を食べ歩く』

ご存じ森まゆみさんが、東京・横浜の老舗を食べ歩きながら、ご主人や女将さんに先代や創業当時の思い出話を聞くという趣向。ありがちな企画だが、さすが森さん、ツボを押さえたインタビューで読ませてくれる。 「予約なんぞは下町らしくないし」と満員の店を…

月刊アクロス編集室『「東京」の侵略』

今から20年ほど前、「第4山の手」という言葉が使われていたのをご記憶だろうか。小石川・本郷が第1山の手、牛込・四谷・麹町が第2山の手、杉並・世田谷・目黒が第3山の手、そしてその先の横浜市緑区・青葉区から町田市・多摩市・八王子市・立川市を経て所沢…

『ミシュランガイド東京2008』

こんなもの、買うつもりはなかったのだが、必要があって購入。はっきりいって、行ったことのある店は一つもない(笑)。しかし、食べたことはなくても、この本がけっこういい加減なものであるということはよくわかる。 まず、都心および準都心8区(品川・渋谷・…

加太こうじ『東京の原像』

加太こうじは、もともとは紙芝居作家だが、後に東京の庶民文化研究者となった人。この本は、明治から昭和初期の庶民文化の概説といったものだが、とくに「山の手と下町」の違いと対立関係について詳しい。 両者の気質の違いは、武士と町人の違いだとし、これ…

川本三郎『私の東京町歩き』

必要があって、再読。最近「居酒屋考現学」などというものをやっているが、これはその着想を得るきっかけの一つになった本である。 著者は東向島から鐘ヶ淵あたりを散策し、縄暖簾のやきとり屋に入ってビールを注文する。すると、隣の客が話しかけてくる。「…

山田太一編『浅草』

さまざまな文士や学者などが書いた浅草に関する小文を集めたリーディングス。編者が山田太一というのは意外な気がしたが、実は浅草生まれとのこと。 冒頭におかれた鳥居龍蔵の「人文地理上より見たる江戸と浅草」は、東京の地理的な特徴と浅草の位置を解説し…

川本三郎『ちょっとそこまで』

原著は1985年。『都市の感受性』『雑踏の社会学』などに続く、著者の都市論・紀行文としては初期に属するもの。 中野、阿佐ヶ谷、高円寺、小岩、亀有など、かつての郊外都市の良さを「どこにでもある匿名性」と喝破し、大きな盛り場に「群衆の中の孤独」があ…

岩渕潤子・ハイライフ研究所山の手文化研究会編『東京山の手大研究』

必要があって、再読。 いちばんの読みどころは、戦前期の東京帝大教授の地理的分布を図で示して、その変遷を明らかにした部分。帝大教授たちは、明治中期には主に本郷・小石川・牛込・四谷など都心の山の手に住んでいるが、日本橋や神田など下町の住人も3分…

サイデンステッカー『東京 下町山の手』

日本文化研究家のサイデンステッカーは、大の下町びいきだった。 浅草について書いた一文には、「日本のいわゆる知識階級の生活が、正気の沙汰ではなく、馬鹿馬鹿しくて仕方がなくなってきた時、時評のために、山と積まれた文芸雑誌のどれもこれもが、つまら…