橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

スティグリッツ『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』


 ポール・クルーグマンノーベル経済学賞を受賞した。私はもともと、ノーベル賞などというものは信用していない。受賞対象が、ノーベルとの遺言に基づいて「発見」に限定されているため、科学研究に歪みをもたらしたという批判がある。受賞者の誤った決定も多い。古典的な例では、DNAの構造決定を理由にした生物学賞で、ワトソン、クリックとともに受賞したのが、基礎データを積み上げた女性科学者のフランクリンではなく、フランクリンの研究室からデータを盗み出したウィルキンスだったこと。

 経済学賞は、正確にいうとノーベルの遺言にない「ノーベル記念経済学賞」だが、金融派生商品に関する理論を理由に受賞したショールズが、ヘッジファンドを破産させたといういのも有名な話である。新自由主義の総帥で、金の亡者としても有名なフリードマンも受賞者である。

 しかし2001年のスティグリッツと、今年のクルーグマンは、米国でブッシュ政権批判を繰り広げている米国人の受賞という点で、ちょっと注目していい。とくにクルーグマンなど、はっきりとオバマ支持を打ち出している人物である。これは、政権交代しろというノーベル財団の米国に対するメッセージとも読める。

 本書はスティグリッツが、米国主導で薦められ、米国をはじめとする先進国が有利になるように歪められた、不正なグローバリズムを激しく告発し、健全なグローバリゼーションは、累進課税による所得の再分配を伴うものでなければならないと説いた本。トリクルダウン仮説など、新自由主義の欺瞞についても厳しく批判している。