橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

『松本清張傑作短編コレクション 下』



 三巻本の完結編。三章構成で、「タイトルの妙」「権力は敵か」に続いて、四人の松本清張賞受賞者の小文と、それぞれの推薦作(ただし「地方紙を買う女」は上巻に収録済み)が収められている。

 「支払いすぎた縁談」は、没落豪農の社会的地位への執着が生んだ物語で、どこかで使えそうだ。「骨壺の風景」は自伝的作品で、味わい深い。「鴉」は労働組合役員の一面を突いている。労働組合の活動家に対して「仕事ができないから組合に逃げた」と陰口をたたく連中は昔からいるが、こうした発想がかなり古くからあることが分かる。「菊枕」は、上昇志向の強い女の悲劇。ここでもテーマは、階級構造の中の下降移動だ。

 松本清張というと、私の世代の人間はけっこう身構えて読むところがあるのだが、宮部みゆきは、さらりとユーモアを交えた解説で、別の読み方を教えてくれる。清張に興味を持ち始めた若者にも勧められる。


松本清張傑作短篇コレクション〈下〉 (文春文庫)

松本清張傑作短篇コレクション〈下〉 (文春文庫)