橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

門倉貴史『官製不況』

いま、いちばん速いペースで著書を量産している著者の一人といっていいだろう。エコノミストとはいっても、派遣労働者やセックス産業など、泥臭い問題にも関心をもつ幅広さがある。

本書も「官製不況」をキーワードに、日本企業のモラルハザードワーキングプアの増加、サブプライム問題、年金問題など多くの問題を扱っていて、これら多領域に共通する官製不況的側面を論じている点で、意欲的な著作といっていい。

しかし、どうも著者のスタンスがはっきりしない。ワーキングプア問題を意欲的に取り上げ、政策の欠陥について論じる一方で、構造改革はどんどん推進せよというのだが、その根拠がはっきりしない。25ページでは、独自の計量分析から日本の経済成長率を左右する要因のほとんどは世界景気であり、構造改革は1.3%しか貢献していないという。だとすれば、構造改革は経済成長をもたらさないと結論すればいいものを、これは構造改革が形骸化しているからだと強弁する。外国人投資家は構造改革によって「欧米型の資本主義に近づくこと」を望んでいるというが、ヨーロッパ型と米国型では大違いのはずだ。民営化が好ましいのは競争原理が働くようになるからだとし、その例として郵便物を配達せずに放置していた郵便局員が解雇されたことを挙げているが、これは民営化以前でも解雇対象だったはず。

立論の前提に、いろいろと無理がある。『派遣のリアル』のような地に足の付いた著作が読みたいものである。


官製不況 なぜ「日本売り」が進むのか (光文社新書)

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