橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

小関智弘『春は鉄までが匂った』

これは2回目の文庫化で、初出は1979年。著者は長年にわたって町工場の旋盤工と作家の二足のわらじを履き続けた人物。町工場の日常と金属加工の現場、そして職人たちの克明な描写は、この人にしかできない。

著者は、「社会に対しても自分に対しても、辞めるという拒否権を行使することによってしか自分を表現する手段をもたぬ人たちが多いから、町工場の労働者は常に流動する。それはまた、腕一本で食ってゆくことに自信を持った男の面魂として、こころにくいほどにふてぶてしいものだ」という。このような労働者の心性は、いまではどれほど残っているものか分からないが、高度成長期までの労働者について考える際には、この労働者像を記憶にとどめておきたい。


春は鉄までが匂った (ちくま文庫)

春は鉄までが匂った (ちくま文庫)