橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

鶴ヶ谷真一『書を読んで羊を失う』

博覧強記かつディレッタントだが、社会問題には一切関心を示さないという、あまり好きでないタイプのエッセイのはずだが、ここまでやられると脱帽である。

たとえば「筆名と異名」という一文では、筆名の付け方にもいろいろあるとして、たちどころに何十人もの作家を挙げ、31から年齢とともに35まで増やしていった直木三十五、「くたばってしまえ」の二葉亭四迷、目をつぶって電話帳をひらいて電話をつついたところの名字からとった里見とん(機種依存文字のためカナにした)、最後には生涯に70以上の異名を用いたフェルナンド・ペソアを挙げ、逆に筆名はひとつなのに時期によって6つの本名があったのは立原正秋だとしてしめくくる。見事である。

ただし、異論をひとつ。「ページのめくり方、東西」で、西洋人はページを天からめくり、日本人は地からめくるが、これは右手で地からめくるのは横書きの本ではやりにくいが縦書きの本だと自然だからだという。著者は、左利きの人の存在を忘れているようである。


増補 書を読んで羊を失う (平凡社ライブラリー)

増補 書を読んで羊を失う (平凡社ライブラリー)