橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

後藤道夫・木下武男『なぜ富と貧困は広がるのか』


 格差拡大と貧困の増大が社会問題になるなか、現代のマルクス系実践的左翼知識人の代表格ともいうべき二人による書き下ろし。マルクス主義を標榜してはいないが、実質的には若者に向けたマルクス主義の入門書である。「格差社会を変えるチカラをつけよう」という副題も、いかにも教育的。ねらいが当たったのか、刊行後1ヶ月後には早くも増刷になっている。

 文章は平易で、読みやすい。しかし、だからといって理解しやすいところばかりではない。若い人が読んだ場合、腑に落ちないと思われる個所が散見する。おそらくその原因は、著者の主張がマルクス(およびエンゲルス)そのものの主張に寄り添いすぎているからだと思われる。たとえば、80ページからの「階級はなくせるか」という項目。人々のほとんどが生産活動と公共的機能、精神的な作業を担うことができるようになれば階級はなくなるというのだが、これは分業そのものを廃止するという「ドイツ・イデオロギー」のあまりに空想的な主張そのものである。かと思えば、149ページの「日本を変えるために」では、最低賃金は職種・産業・技能によって上乗せが必要だという。これは、分業を前提した議論であり、しかも技能による格差を肯定することが前提になっているが、じつは「資本論」のマルクスとは整合的である。

 しかし、このような新しい入門書が出るのは良いことだ。同じような試みがあちこちで行なわれるようになれば、現代の若者たちにアピールする叙述の仕方や語法が確立し、さらには理論そのものも修正されていくかもしれない。ただし、ソフトカバー162ページで1400円は高すぎ。税込み1000円に抑えたいものである。