橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ポール・クルーグマン『格差はつくられた』


 すでにあちこちに書評がでているから、だいたいの内容についてはご存じの方も多いだろう。パリ滞在中にネットで書評を読み、日本に帰ったらまっさきに読まなければと考えていた本のひとつである。

 世界的に進行し、とくに米国と日本で顕著な格差拡大については、技術革新とグローバリゼーションが原因だから止めることはできないという宿命論が大きな影響力を持っている。しかし著者は、格差拡大は米国共和党内の「保守派ムーブメント」によってつくられたものだという。そしてその際には、人種差別意識が巧妙に動員された。さらに選挙が接戦になったところでは、キリスト教右派の組織票が大きな役割を果たした。

 日本も、状況はよく似ている。日本では人種差別意識の果たした役割は大きくないが、フリーター蔑視や、生活保護受給者やホームレスに対する差別的な眼差しは、格差拡大批判の中和剤として動員されてきたといっていい。公務員蔑視や学歴差別、自営業や零細企業をターゲットとした税金逃れ批判・公共事業批判なども、ここに付け加えていいかもしれない。そして、接戦の選挙で大きな役割を果たしているのは、やはり創価学会という宗教団体の票である。

 格差拡大が政治によってつくられたものである以上、クルーグマンの処方箋は端的に政治改革ということになる。政治を変えることによって、アフターマーケットの再配分を強化し、最低賃金の引き上げによって、市場所得の格差そのものも小さくする。まっとうな提案である。日本の現実に即した、この本の日本版が書かれる必要があろう。