橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

魚住昭『野中広務 差別と権力』


 自民党総裁選挙で、麻生太郎が当選確実と伝えられる。短命内閣に終わることは間違いないが、少なくとも一時期は、麻生が総理大臣になるわけである。しかし麻生はいろいろ爆弾を抱えている。自爆寸前といってもいい。その爆弾のひとつが、差別発言問題である。本書では、関係者の証言にもとづいて、その事実が明らかにされている。

 2001年、支持率が3%にまで落ちた森喜朗の退陣を受け、当時の橋本派内には野中広務を次期総裁に推す動きがあった。もう一人の総裁候補は麻生太郎だったが、このとき彼は、麻生派の前身である河野グループの会合で、野中の名前を挙げながら「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわなぁ」と言い放ったというのである。そして2003年、引退を表明して最後の自民党総務会に臨んだ野中は、次のように発言した。

 「総務大臣に予定されておる麻生政調会長。あなたは大勇会の会合で『野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなぁ』とおっしゃった。そのことを、私は大勇会の三人のメンバーに確認しました。君のような人間がわが党の政策をやり、これから大臣のポストについていく。こんなことで人権啓発なんてできようはずがないんだ。私は絶対に許さん!」。

 魚住によると、「野中の激しい言葉に総務会の空気は凍りついた。麻生は何も答えず、顔を真っ赤にしてうつむいたままだった」。

 いま麻生は、そして自民党の幹部たちは、野中の動きに戦々恐々としていることだろう。『週刊ポスト』10月3日号によると、野中は8月末のテレビ番組で、「私は、私個人のことについてもですね、麻生総理総裁ができたらね、自分の生命をかけて、国民にわかるようにしますよ」と発言している。また9月17日の『毎日新聞』のインタビューでは、麻生について「人権を踏まえた視点がありますか。華麗な家柄だけど、人を平等に考えない。国家のトップに立つ人として資質に疑問がある」と語っている。他にも、麻生の人権感覚についてはいくつか記事が出始めている。総選挙ともなれば、何かの動きがあるはずだ。

 現在では、文庫で容易に入手できる。


野中広務 差別と権力 (講談社文庫)

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