橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

紀田順一郎『昭和シネマ館』

著者は博識で知られ、文学・風俗・歴史など広い分野で活躍し、推理小説も書くという、現代の「超人」の一人だが、今度は映画の本である。
自らが少年時代からリアルタイムで見た映画を中心に、戦後映画文化史を語っていく。とりあげられる映画は洋画が多いが、黒澤明小津安二郎など日本映画もところどころでとりあげられる。
とくに、戦後の食糧難が解消していない時期に、映画のなかに豪華なケーキを登場させたり、普及が始まったばかりの耐久消費財を登場させたおづの小津の映画を「小津安二郎の早すぎる離陸」「ひとり小津だけがいわゆる中産階級のドメスティックな関心へと堂々たる離陸を果たしている」と論じたのは、深く同感する。
私なども、50歳近くなってときどき歴史めいたものを書くようになっているが、まだまだ生き証人の多い世界を書くのは大変。こうした年長世代には、とてもかなわないと思う一方で、何か新機軸を打ち出せないかと意欲をかき立てられもする。

昭和シネマ館―黄金期スクリーンの光芒

昭和シネマ館―黄金期スクリーンの光芒