橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

映画

堀川弘通『評伝 黒澤明』

先日紹介した、小林信彦の『黒澤明という時代』が、もっとも優れた黒澤明の評伝として紹介していたのが本書。実際のところ小林信彦は、事実関係については大部分を本書に負っていて、これに自分の経験と黒澤の作品評を付け加えたといった方がいいくらいであ…

小林信彦『黒澤明という時代』

今年の三月に文春文庫から出たが、原著は二〇〇九年。黒澤明の全作品を同時代に観た著者が、自分史と戦後史を重ね合わせながら、これら全作品を論じていく。ちなみに最初の作品である「姿三四郎」を観たのは、一〇歳の時だという。著者は笠原和夫を引きなが…

成瀬巳喜男の墓

すぐ近所にあるとは知りながら、ついつい行きそびれていたが、今日になって初めて墓参りができた。砧公園にほど近い、世田谷区の円光寺にある。なんとなく、墓地の奥の方に鎮座しているものと思いこんで探し回ったが、実は墓地の入り口のそばにある。映画の…

佐藤忠男『大衆文化の原像』

アカデミックな研究の世界とは異なり、映画評論の世界では、国際的な評価というものが形成されにくい。大多数の評論家は、自国映画と外国映画を二つの柱とするわけだから、同じフィールドで活動しているとはいえない。英語圏以外の評論家の著作が、他国で読…

佐藤忠男編著『ドキュメンタリーの魅力(日本のドキュメンタリー1)』

佐藤忠男の編著で、『日本のドキュメンタリー』という五巻本、さらに三枚組のDVDボックス三巻が、岩波書店から発行されることになったとのこと。本書は、その第一弾である。 佐藤忠男の概説は、予想通りの手堅い内容だし、吉岡忍と森まゆみの秀作紹介も、た…

川西玲子『映画が語る昭和史』

私が日本映画でいちばん嫌いなのは、女性のレイプシーン、そして女が男に理由もなくすべてを捧げるシーンである。評判のいい映画でも、こういうシーンがあると分かっている場合には、見る前に気が重くなる。こんな感覚を持つ人はいないのかと思っていたら、…

藤井淑禎『御三家歌謡映画の黄金時代』

これも、昔のB級映画を扱ったもの。「橋・舟木・西郷の『青春』と『あの頃』の日本」という副題があり、この三人の主演した歌謡映画を通じて、高度経済成長期の日本を振り返ろうというわけである。 著者によると、歌謡映画では人気歌手が普通の若者を演じ、…

岡田喜一郎『昭和歌謡映画館』

昔のB級映画ものを、もう一冊。本書は、エノケン、美空ひばり、石原裕次郎、小林旭などが主演し、主題歌を歌った映画を中心に、昭和20年代から40年代までの、さまざまな歌謡映画を紹介している。400ページを超えるボリュームで、このテーマに関しては、当面…

樋口尚文『ロマンポルノと実録やくざ映画』

最近、昔のB級映画が静かなブーム、なのだろうか。多くはビデオソフト化されていないのだが、衛星放送やケーブルテレビが普及して、比較的かんたんに見ることかできるようになったことから、ガイドブック的なものも求められるようになっているのかもしれない…

木下昌明『スクリーンの日本人』

映画評論の世界には、もともと反体制的感性の持ち主が少なくないけれど、これほどはっきりと反体制カラーを前面に出し、しかも何冊もの著書のある人は、今では珍しい。「日本映画の社会学」という副題のつく本書は、さまざまなジャンルの多くの映画を扱っては…

「幻の光」(是枝裕和監督・1995年)

木下昌明という映画評論家の本を、立て続けに四冊読んだ。これについては、日を改めて書くことにするが、そこで興味をひかれて見たのが、この映画である。 ストーリーは、どうということはない。主人公のゆみ子(江角マキコ)は、夫が突然の自殺を遂げた5年後…

好井裕明『ゴジラ・モスラ・原水爆』

著者はエスノメソドロジー研究で知られる社会学者だが、映画にも関心をもっているようで、論文がいくつかある。本書は単行本として刊行されたものとしては、唯一の映画論である。 私もほぼ同世代だから、子どものころに怪獣映画に興奮した経験は共有している…

廣澤榮『私の昭和映画史』

先日読んだ『日本映画の時代』が面白かったので、こちらも読んでみた。タイトルからみると、自身の体験をまじえながら、昭和映画史をある程度包括的に論じたもののようにみえるが、実際には半分以上が映画界に身を投じる前の生い立ちの記で、後半部分も、ほ…

小林信彦『映画を夢みて』

小林信彦の、主に若い頃に書いた映画評論集で、初出は一九九一年。これは九八年に出た文庫版である。小林信彦は一九三二年生まれだから、かろうじて戦前・戦中を経験した世代であり、戦争直後から五〇年代の映画を、リアルタイムな経験にもとづいて語ること…

廣澤榮『日本映画の時代』

著者は、黒澤明、成瀬巳喜男、豊田四郎などの助監督を務めたあと、シナリオライターとして活躍した人物。シナリオライターとしては「サンダカン八番娼館 望郷」などを手がけているが、さほど多くの作品があるわけではない。しかし戦後映画史の生き証人として…

紀田順一郎『昭和シネマ館』

著者は博識で知られ、文学・風俗・歴史など広い分野で活躍し、推理小説も書くという、現代の「超人」の一人だが、今度は映画の本である。 自らが少年時代からリアルタイムで見た映画を中心に、戦後映画文化史を語っていく。とりあげられる映画は洋画が多いが…

『東京オリンピック』(市川崑監督・1965年)

オープニングが有名だ。オレンジ色の夕日が大写しにされたあと、画面はクレーンにつり下げられた巨大な鉄球をとらえる。鉄球はゆっくりとコンクリートの建物に激突し、壁が崩れ落ち、ごう音が響き渡る。残されたがれきは、ブルドーザーによって片付けられて…