橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

川本三郎『今日はお墓参り』



 田中絹代有吉佐和子成瀬巳喜男長谷川利行森雅之、芝木好子など、昭和文化を彩った十八人を取り上げ、その墓を訪問することを縦糸に、それぞれの短い評伝を一冊の書にまとめ上げるという、何とも心憎い企画である。

 川本三郎の著書を読むときにはいつも自分の無知を痛感させられるけれど、知っていた人物はかろうじて三分の二になるかというところ。やはり目の付け所が違うというべきか、魅力的な人物、そして人生ばかりである。映画監督や俳優たちについての文章は、まさに手の内に入った佳品揃いだが、田中絹代小林正樹が同じ墓に入っていて(二人はいとこどうし)、背中合わせに佐田啓二の墓があったのを見つけるくだりは、なかなか感動的。

 著者の死者に対する共感が、ときおり文章を熱くする。山本祥三、そして岩崎昶についての章がそれだ。病身を押して下町を描き続ける山本の姿には鬼気迫るものがある。そして岩崎は、著者にとっては大切な恩人だという。

 なぜか、この本は文庫化されていない。題材といい、ひとつひとつの文章のできばえといい、広く読まれて良いはずなのだが。古書もあまり出回っていないようだ。


今日はお墓参り

今日はお墓参り