橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

「幻の光」(是枝裕和監督・1995年)

classingkenji+books2009-08-13

 木下昌明という映画評論家の本を、立て続けに四冊読んだ。これについては、日を改めて書くことにするが、そこで興味をひかれて見たのが、この映画である。
 ストーリーは、どうということはない。主人公のゆみ子(江角マキコ)は、夫が突然の自殺を遂げた5年後、再婚のため生まれ育った地である尼崎を去り、奥能登・輪島の漁村へと移り住む。新しい夫・民雄との愛も育っていくが、前夫の謎の自殺がいつまでも頭から離れない。しかし、近くで葬列を目撃したこと、義父が漁で目撃したという「幻の光」の話を聞いたことから、過去から解き放たれていく、というもの。
 登場人物には、どこかリアリティがない。新しい夫は、一時期大阪に住んでいたという設定で、関西弁を話すのだが、地元出身ならすぐに方言に戻るはず。義父の柄本明や、地元の老婆を演じる桜むつ子の言葉も、輪島弁には聞こえない。それに、ゆみ子と民雄の服装がおしゃれすぎる。エピソードにも、無理がある。木下昌明も指摘していたが、いくら秘境・奥能登(笑)でも、棺を担いでの葬列などありえないし、野外で火葬することもあり得ない。
 魅力は、映像美である。奥能登の漁村には、とくに目をひく名勝こそないものの、ゆっくり歩いてみれば、ときおり素晴らしい風景に出会うことが多い。そんな風景を、丹念に拾い上げている。廃屋を改装したという民家の趣もいい。冬の寒々とした風景も、よく捉えられている。輪島の朝市も、観光向け映像ではないリアルさがある。陳明章の静謐な音楽も、この映像にふさわしい。能登出身の人は、ぜひ見るべき。

幻の光 [DVD]

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