平岡正明『昭和マンガ家伝説』
平岡正明が亡くなった。私がこの名前を知ったのは、一九七二年の『あらゆる犯罪は革命的である』によってだが、犯罪と反体制を無関係な、それどころか対極のものと考える潔癖左翼の発想から解放されるのに、この本のタイトルは(ほとんどタイトルと目次だけしか読んでいなかった)役に立った。サブカル関係の評論が多い著者だけに、これが初めてのマンガ論だったとは意外である。
取り上げられている作品のラインナップが、独特である。「銀河鉄道999」「コブラ」「こち亀」があるかと思えば、六浦光雄や小松崎茂も取り上げられている。その視点は、一貫して階級的である。
たとえば「サザエさん」には、第三世界への寄生化によるプロレタリアートのプチブル化が反映されている。「男おいどん」に「貧しすぎて学生運動をやることもできなかった少年の悲しさ」を見てとる。そして「こち亀」に、地方から出てきた労働者による新しい下町情話が含まれているとする。卓見である。戦後大衆文化研究の、未開のフィールドが、ここにある。