橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

斎藤美奈子『誤読日記』



 斎藤美奈子は、私が逆立ちしてもかなわない、と常日頃から感じている著者の一人である。

 本書は『週刊朝日』と『AERA』に連載された書評をまとめたものだが、通り一遍の書評集とは訳が違う。タレント本やノウハウ本、中高生向け恋愛小説、三流ビジネス本など、およそまともな書評家や読書人は手に取らないであろうというような本が7割方を占め、これらにツッコミを入れまくり、コテンパンに罵倒しまくるという、斎藤ならではの芸が存分に楽しめる。とくに感心するのは著者の「文体模写」で、変わった文体の本があれば、同じ文体を駆使してツッコミを入れるという、形式と内容の二重批評。まねてみたい誘惑に駆られるが、なかなかできることではない。

 これら7割の本の、かなりの部分はベストセラーである。本書を読めば、まともな書評が取り上げないのは当然であること、いかに読む価値のない本であるかということ、つまり日本の出版界が、どれほど低水準のところで金稼ぎをしているかということがよく分かる。買う気はしないが、ベストセラーはちょっと気になるという向きには、その気になるところを解消してくれる効果がある。

 唯一の汚点は、文庫版ということで付け加えられた、吉田豪の解説だろう。元大阪府知事のセクハラ事件の被害者が書いた本についての斎藤の一文を、「被害者に感情移入して」いると評し、あんな「エロダコ」の選挙活動を手伝おうというのが間違いだと断定する。さらにこの本から、性的な表現やらPTDSに関する表現やらを抜き出し、「ネタじゃないかと思うほどのオチ」と笑い飛ばす。

 理解できないのは、自分のあとがき(本書そのものに対する書評という形式をとっている)で、斎藤が「この解説を読むと、斎藤美奈子が書評家としていかに二流で凡庸であるかがよく分かる」と迎合していること。斎藤の良さは、ツッコミの鋭さや文体模写の芸が、批判精神とフェミニズムによって裏打ちされているところにあるはずなのに、これでは自分をただの芸人と貶めていることにならないか。

 とはいえ、快著である。それぞれの文は短いので、通勤途中で読むのに最適。もちろん、読みたくなる好著も、多数取り上げられている。


誤読日記 (文春文庫)

誤読日記 (文春文庫)