橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

太田和彦『東京 大人の居酒屋』



 太田和彦の居酒屋本といえば、執拗なまでにメニューを書き写したデータ完備のガイドブックと、紀行文風のエッセイ集が思い浮かぶが、本書はやや趣が違う。

 取り上げられた五五店は、すべて右側に文章、左側に写真という二ページ構成でまとめられている。写真にはまったく人物が登場せず、店の雰囲気と料理の質感を写し取ることに主眼が置かれる。そして、文章も簡にして要、建築と内装、主の人となり、料理と酒の美質を凝縮する。たしかに巻末には、住所と地図が収められ、主なメニューも値段付きで示されている。しかし本文だけをみるなら、こうした即物的なところを忘れ、店の魅力だけに集中させる仕掛けになっている。

 取り上げられている店そのものは、すでに著者がこれまで紹介してきたものがほとんどだが、これまでとはひと味違う本作りで、独自の価値がある。巻末のデータに創業年が添えられ、根岸の名店「鍵屋」に「安政3年」などと記されているのがうれしい。


東京 大人の居酒屋

東京 大人の居酒屋