橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

居酒屋考現学

「卯波」と鈴木真砂女

川本三郎の新著を読んでいて、銀座の居酒屋「卯波」のことを思い出した。かつて銀座一丁目の細い路地にあった居酒屋で、俳人の鈴木真砂女さんが営んでいた。九〇歳を超えるまで店に立ち続けていたはずである。和風シュウマイと鰯の叩き揚げが名物で、客には…

藤木TDC『場末の酒場、一人飲み』

著者は、私の命名するところ、「ヤミ市系ルポライター」である。ヤミ市起源の飲食店街や商店街、ほとんど廃墟と化したその名残などを、執拗に追いかける。たんに眺めるだけでなく、その歴史についても資料を渉猟する。本書は、その取材・研究の成果をコンパ…

阿部健『どぶろくと女』

著者は酒のマーケティングと酒文化の普及に、長年携わってきた人物。その経験と蓄積に加え、退職後の十数年を費やして資料・文献を渉猟し、まとめたのが本書である。全六二九ページ、目次だけでも一二ページという大冊だ。 記述は縄文期に始まり、万葉の時代…

太田和彦『東京 大人の居酒屋』

太田和彦の居酒屋本といえば、執拗なまでにメニューを書き写したデータ完備のガイドブックと、紀行文風のエッセイ集が思い浮かぶが、本書はやや趣が違う。 取り上げられた五五店は、すべて右側に文章、左側に写真という二ページ構成でまとめられている。写真…

『古典酒場』Vol.8

このムックも、もう8号になった。今回のお題は「日本酒酒場」である。「吉本」「鍵屋」「伊勢藤」「串駒」などの有名店も揃えているが、「立呑屋」「清瀧」それにカップ酒の店と、大衆的な店もカバーしている。後ろの方には、連載のブロガー座談会もあり、私…

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して…

食楽責任編集『厳選!旨い居酒屋250店』

雑誌『食楽』の別冊で、創刊からの4年間に取材した居酒屋を厳選して集めたもの。正統派の居酒屋料理を出す風格ある居酒屋を中心に、郷土料理系、海戦料理系、銘酒系などを加えたラインナップで、全体にグレードはやや高め。その意味では『古典酒場』などとは…

山縣基与志編『歌が聞こえてくる 東京ガード下酒場』

居酒屋本にも、トレンドがある。地酒ブームが始まったころは、地酒をいろいろ揃えたのがいい居酒屋だとされ、銘酒居酒屋の紹介が多かった。太田和彦氏が登場してからは、居心地の良さや伝統が重んじられるようになった。景気がよかった時期には、懐石風の良…

森下賢一『居酒屋礼讃』

かつて毎日新聞社から出版された単行本に、大幅加筆して文庫化された。原著は、今日では花盛りの各種居酒屋本の元祖とでもいうべきもので、私も大いに参考にさせていただいたもの。とくに、客の社会的構成を服装から読み解くという手法は、ここから着想を得…

坂崎重盛『東京煮込み横丁評判記』

著者は墨田区に生まれ、大学で造園学を専攻し、長年にわたって自治体で都市計画に携わった人物。退職後はエッセイストとなり、『TOKYO 老舗・古町・お忍び散歩』『東京本遊覧記』などの著書がある。当代一の、東京街歩きの達人の一人といっていい。この著者…

『東京銘酒肴酒場』

居酒屋ムック『古典酒場』の、これまで発行された5冊の総集編ともいうべき居酒屋ガイドブック。ホッピーと酎ハイ、もつ焼きと煮込み系の下町大衆酒場を中心に、多数の店を紹介している。A4版と大きいので、開いて歩き回るには向かないが、飲みながら読むには…

なぎら健壱『絶滅食堂で逢いましょう』

なぎら健壱が、古き時代の雰囲気を色濃く残し、いつ滅びるかわからない(ように思わせる)食堂・喫茶店・酒場を巡り歩くという、雑誌連載の単行本化。赤羽「まるます家」の女性店員たちがずらりと並んだ、表紙の写真が素晴らしい。奥には、なぎら健壱が何とも…

東直己『酔っ払いは二度ベルを鳴らす』

酔っ払いの生態をおもしろおかしく描いたエッセイというのは、昔から数あるけれど、これはその傑作の数々に連なる一冊。著者は、札幌に住みススキノで日々飲み歩いている小説家である。 エッセイのかっこうの題材になるのは「記憶喪失系」のエピソードだろう…

なぎら健壱『酒にまじわれば』

『朝日新聞』の購読を止めた。小泉改革礼賛、規制緩和推進の論調が目だった頃から、止めようと思ってはいたのだが、仕事に必要な情報があるのは事実なので、そのままにしていた。しかし今年、3ヶ月間の渡欧で止めたのを機に、そのままにすることにした。そう…