橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

友里征耶『グルメの嘘』



 著者は「激辛」グルメライターとして知られる人物。批判された料理店関係者が大勢で自宅に乗り込んできたり、家族への危害をほのめかして脅迫されたりしたこともあるという。その激辛ぶりは、「友里征耶の行っていい店わるい店」で知ることができる。とくに「ミシュランガイド東京」に対する批判は有名で、掲載店に対する徹底した検証は一読に値する。

 本書は、ある意味では禁欲した本で、店や人物の実名を出した批判は控え、日本の料理界と飲食店を取り上げるマスコミ全体に対する批判に徹している。それはまことに小気味よく、正論ばかりである。とくに厳しく批判されるのは、グルメライターと料理人の癒着である。料理評論は経費がかかる割に儲からないから、これで生計を立てるのは不可能に近い。そこで料理人をヨイショし、ただメシにありついたり、提携して金を取ったりすることになる。これでは、まっとうな評論が出来るはずはない。これに対して著者は、中小企業の経営で生計を立てており、多少の原稿料は受けとるものの、基本的には赤字で評論活動を行っているという。

 酒についての話題も多い。なぜレストランはビールを置かないか。それは儲からないからである。高めに値付けしたとしても、利益はせいぜい数百円。これに対して高級ワインなら、場合によっては万単位の利益が出せる。しかもワインは種類が多すぎて、客には原価が分からないことが多いから、不満も出にくい。それでは、レストランのワインの値付けが良心的かどうかを、どうやってみきわめればいいか。それは、シャンパーニュの値段を見ることである。ノンヴィンテージのシャンパーニュなら、クリュグなど一部を除いて、小売価格は五千円前後で大きな違いがない。これを一万円未満で出していれば、良心的といえる。なるほど、これならかんたんに見わけられる。

 ミシュラン東京2010は、居酒屋や焼鳥屋を取り上げたと評判になっている。しかし、取り上げられたのはいずれも、客単価が一万円を越えるような店ばかりだ。本家のフランスでは、安いビストロが多数取り上げられているというのに。日本の読者も、なめられたものである。今日のグルメマスコミに不満のある人は、いや不満のない人も目を醒すために、読むべきである。


グルメの嘘 (新潮新書)

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