橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

佐藤忠男編著『ドキュメンタリーの魅力(日本のドキュメンタリー1)』

佐藤忠男の編著で、『日本のドキュメンタリー』という五巻本、さらに三枚組のDVDボックス三巻が、岩波書店から発行されることになったとのこと。本書は、その第一弾である。
佐藤忠男の概説は、予想通りの手堅い内容だし、吉岡忍と森まゆみの秀作紹介も、たいへん参考になる。カメラマンの堀田泰寛の一文は、ドキュメンタリー撮影の実際をよく伝えていて、興味深い。しかし本書の最大のメリットは、付属のDVDである。佐藤忠男らのインタビューは、大半が本文で書かれていることで、どうということはないが、抜粋で二〇本収められた作品が、いずれも素晴らしい。
とくに印象に残ったのは、関東大震災直後の東京各地の映像、土本典昭が交通戦争と呼ばれた六〇年代の道路事情をとらえた「路上」、そして大量の農薬が水田や畑に散布されるすさまじい光景をとらえた「農薬禍」など。科学映画だが、「潤滑油」の驚嘆すべき映像は忘れられない。絵画にはアブストラクトというものがあるが、アブストラクト映画というものがあったとしたら、これが近いかもしれない。これで二二〇〇円は、安い。

シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力

シリーズ 日本のドキュメンタリー (全5巻) 第1回 第1巻 ドキュメンタリーの魅力