橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

大橋富雄(写真) 益子義弘・永田昌民(文・スケッチ) 『東京−変わりゆく町と人の記憶』

昭和ブームでいろんな写真集が出たが、その多くは昭和三〇年代から四〇年代を扱っていた。ところがこの本が扱うのは昭和五〇年代。私が大学生だった頃で、東京についての記憶も鮮明だ。こんな時代が、もう「歴史」として扱われるようになったのだろうか。
ページをたぐってみると、次々に失われた風景が目に入ってくる。東京オリンピックと高度成長で、東京は激変したといわれるが、それでも昭和五〇年代には、まだまだ戦前からの風景や、高度成長以前から変わらない生活があったのだ。新富町の、もう失われた佐藤理髪店の主人は、「この壁の飾りものも明治のものであれば明治村にでも持ってってもらえますかね」という。明治なら文化財だが、昭和なら文化財にならないということか。
うれしくなるのは、銀座の裏路地だ。今もほとんど変わらない。昔の映画を見れば、昭和三〇年代から変わっていない。しかし油断は禁物で、人通りがやや少ない一丁目二丁目界隈は、再開発が進んでいる。今はもう、昭和でいうなら八五年だ。戦前・戦後を問わず、昭和の建築や街並みを体系的に保存することを考えるべき時期だろう。

東京―変わりゆく町と人の記憶 (写真アーカイブ)

東京―変わりゆく町と人の記憶 (写真アーカイブ)