橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

山田太一編『浅草』

さまざまな文士や学者などが書いた浅草に関する小文を集めたリーディングス。編者が山田太一というのは意外な気がしたが、実は浅草生まれとのこと。

 冒頭におかれた鳥居龍蔵の「人文地理上より見たる江戸と浅草」は、東京の地理的な特徴と浅草の位置を解説したもので、簡潔かつ明晰。権田保之助の「大阪と浅草」は、東京の民衆は知識階級と労働者階級、大阪の民衆は商工階級と職人階級だとし、ここから両者の気質の違いを説く。

 ノーベル賞など取ったものだから忘れられがちだが、大の浅草好きだった川端康成は、「人々が階級を忘れ、はらわたをさらけ出すほどに、人間の渦巻きである。浅草には論理がなく、実行がある」という。そして、『敗戦日記』の高見順の哀切。よくできたリーディングスで、こういうものを読むと、自分も編集という作業をやってみたくなってくる。