橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

加太こうじ『東京の原像』

加太こうじは、もともとは紙芝居作家だが、後に東京の庶民文化研究者となった人。この本は、明治から昭和初期の庶民文化の概説といったものだが、とくに「山の手と下町」の違いと対立関係について詳しい。
両者の気質の違いは、武士と町人の違いだとし、これが震災と空襲を経て外縁に拡大し、大企業管理職・官公庁と工員・中小企業・商人の違いになっているという図式は、今ではさほど新鮮ではないが、この「常識」を作ったのはこの本なのではないか。
東京下町人はもともと泥棒好きで、三億円事件の犯人は当時英雄視されていたという指摘は、面白い。著者の父親は、あれは薩長の旗で江戸っ子の立てるもんじゃねえ、といって、日の丸は生涯立てなかったという。こういう文化は、今どこかに残っているだろうか。現在は、品切れ絶版。