橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

こうの史代『夕凪の街 桜の国』

2004年刊の文庫化。紙屋研究所紙屋高雪さんが絶賛していたので、手に取ってみた。広島の被爆少女と、その家族たちの、美しくも哀しい物語である。
原爆投下の10年後の広島の川のほとり、「お前の住む世界はそっちではない」という声におびえる少女が、はじめて青年の愛を得る。その川の下を、無数の死体が流れていく。「生きとってくれてありがとうな」。ところがその直後から、体に異変が始まる。残された者たちは、差別され、自らも差別する。こんなストーリーについて語るのは、あえて禁欲する。
細部の描写が美しく、しかもリアルだ。町外れのバラック暮らし。「立ち退き絶対反対」の貼り紙。外に干された洗濯物など。100ページ少々の小品。「高いのは私が売れない作家のせいなんで本当に申し訳ないです」というあとがきが、謙虚で好ましい。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)