橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

小林信彦『映画×東京 とっておき雑学ノート』

エッセイを読むのは好きだが、リアルタイムで読むことは少ない。一般週刊誌や総合雑誌を毎回買うことはないし、単行本を買うのも、文庫化されてから、あるいは評価が出てきてからということが多いからだ。そもそも、身辺のことや文学・映画などについて書かれたエッセイなら、リアルタイムで読む必要はない。
しかしこの本、この著者のエッセイをほぼ新刊の時期に読むのは初めてなのだが、リアルタイムで読むことの楽しみを教えてくれる。政治の動き、世界の動き、東京のちょっとした変化に、映画の話題を交えて語る、その語り口は軽妙ながらも円熟している。これまで回想録のようなものばかり読んできたので気がつかなかったのだが、この人の時代感覚、あるいは時代の流れを読む感覚は、本物である。しかもその感覚には、戦前、戦時、敗戦、戦後とずっと東京をみてきたことの裏付けがある。とくに「敗者と怨念」は必読である。

映画×東京とっておき雑学ノート―本音を申せば

映画×東京とっておき雑学ノート―本音を申せば