橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

十川信介『近代日本文学案内』



 岩波文庫の別冊として刊行された、近代日本文学の解説書。時系列通史のような無味乾燥な構成ではなく、立身出世の欲望、異界と別世界への願望、交通機関と通信手段という、三つの柱を立ててテーマ別に近代文学の数々の作品を論じていくという構成がユニーク。これなら、興味を持って読むことができる。

 とくに私にとっては、この第1の柱の部分はたいへん参考になった。立身出世や階級葛藤が、これほどまでに近代文学と関わりが深かったのかと、目を開かされる。具体的なテーマを縦糸に数々の作品を取り上げていくという手法は、川本三郎の応用のようにも思えるが、近代文学の専門研究者が時間をかけて書いているわけだから、情報量は非常に多い。老後の研究テーマとして、文学論でもやろうかという気になってくる。


近代日本文学案内 (岩波文庫)

近代日本文学案内 (岩波文庫)