橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

ザルツブルク音楽祭 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサート

今年のザルツブルク音楽祭では、5人の指揮者がウィーン・フィルを指揮した。登場順に、ピエール・ブーレーズジョナサン・ノットリッカルド・ムーティ、マリス・ヤンソンス、そしてエサ=ペッカ・サロネンである。
私が聞いたのはサロネンの指揮したコンサートで、曲はマーラー交響曲第3番。ソプラノはフィンランドのリリ・パーシキビ、女声合唱はウィーン国立歌劇場合唱団、少年合唱はザルツブルク音楽祭少年合唱団。席は2階の2列目、左から11番目で、第1バイオリンがほぼ正面にくるような席だった。やはり日本なら間違いなくS席になるような場所で、115ユーロ。
マーラーの第3番は、マーラー交響曲で最長の作品であるだけでなく、おそらく演奏される機会の多い交響曲すべてのなかでも、ほぼ最長といっていいだろう。長大な第1楽章は、私の感覚では音楽の流れにスムーズではないところがあり、音響的には華やかであるにもかかわらず、やや退屈になりがち。しかしこの日の演奏では、冒頭のホルンをはじめとして金管奏者たちの名技を堪能することができ、さらに完全に鳴りきったときのウィーン・フィルの音そのものを楽しむことができた。
第1楽章が終わると、指揮者は指揮台のそばの椅子に座って休憩を取り、2-3分後に第2楽章が始まる。CDで聴くウィーン・フィル、とくに弦楽セクションは、やや粘りけのある木質系の音色で、時には鈍重に聞こえることがないではない。ところが今日の演奏では、意外に金属質な音色と卓抜な機動力を感じさせた。声楽の入る4楽章、5楽章もよかったが、何といっても素晴らしかったのは5楽章から時間をおかずに始まった第6楽章である。冒頭の静かな弦楽合奏からして、おそらく世界最高の弦楽合奏といっていい名演で、少しずつ増えていく管楽器も絶妙。圧倒的なフィナーレまで、しばし時間を忘れて音楽に没入する、得難い体験だった。
サロネンはこれまで、北欧音楽と現代音楽を専門にするやや軽量級の指揮者という印象があったが、少なくとも第2楽章以降を聴く限り、オーケストラに対する統率力と長大な演奏を破たんなく作り上げる構成力を持った素晴らしい指揮者だということを実感。2008年からはロンドン・フィルの主席指揮者に就任するとのことだから、今後はレパートリーも増えていくだろう。期待したいところである。(2008.8.30)