橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

東野圭吾『容疑者Xの献身』



 2005年刊の文庫化。映画化されて、ずいぶん評判になっている。主人公・石上のキャラがいい。理知的で暗くて純情。他人とは思えない(笑)。

 これから読む人もいるだろうから抽象的に書くが、「対象のズレ」と「時間のズレ」がポイント。「時間のズレ」の方は見事で、最後まで気づかなかった。しかし「対象のズレ」の方は、やや見え見え。こんなことに警察が気がつかないとか、気づいても捜査を進められないとか、そんなことがありうるだろうか。

 隅田川の風景と、その河畔に住むホームレスたちの姿が、ビジュアルな背景だ。あとで、江戸川も出てくる。21世紀の下町が、無機的に描かれる。下町の内部に、もう少し入りこむことはできないものか。下町好きとしては、少々残念なところである。

 とはいえ、おもしろくて一気に読んだ。読んで損することはない。


容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)