橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

河上弘美『センセイの鞄』



 2001年刊の文庫化。居酒屋が舞台で女性が主人公の小説ということで、読んでみた。一見したところ何でもない店だけど、居心地がよく季節の美味しいものを出す「いい居酒屋」の雰囲気は、よく描かれている。

 しかし、40ちょっと前の魅力的な女性が70歳近いひとり者の恩師に恋をするという設定は、ちょっと無理があるのでは?

 解説で斎藤美奈子は、多くの評を引きながら、本書がベストセラーになったのは、中高年男性を舞い上がらせ、妄想をいだかせたからだとしているのは当然だろう。

 そのうえで斎藤は文芸評論家らしく、本書が矜持ある単身者を描いていること、よくある恋愛小説の設定を逆転させたことを指摘して、その独自性を強調する。しかし、だからといって「オヤジの喜びそうな話」という、この作品の最大の特徴が薄れるわけではない。

 ただ、酒は好きだけど居酒屋でのひとり酒にはまだ抵抗があるという「負け犬」女性の皆さんには、役に立つだろう。若いとはいえない独身女性の、居酒屋との自然なつきあい方を学ぶことができる。これは、ひとり酒に慣れていないすべての人にも、共通のことである。


センセイの鞄 (文春文庫)

センセイの鞄 (文春文庫)