橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

東直己『酔っ払いは二度ベルを鳴らす』



 酔っ払いの生態をおもしろおかしく描いたエッセイというのは、昔から数あるけれど、これはその傑作の数々に連なる一冊。著者は、札幌に住みススキノで日々飲み歩いている小説家である。

 エッセイのかっこうの題材になるのは「記憶喪失系」のエピソードだろう。本書にも、いくつも登場する。いや、タイトル自体がそれを暗示しているように、メインテーマといっていい。

 知人のライブが始まるのに1時間少々の余裕があったために、時間つぶしにビールの店に立ち寄ったのを始まりに、結局5軒も梯子してしまい、飲んだのはビール3杯、日本酒12杯、さらにウイスキーとラム。ライブ会場にはたどりつくが、気がつくと自宅のベッドの上、というのは著者自身のエピソード。

 同じ酒場に、気づかないまま一夜のうちに4度も訪れた男の話や、酔ったからと待ち合わせの約束を一度キャンセルしたのを忘れ、待ち続けていた男の話、部下を相手に説教を続け、すぐあとには何をいったか忘れてしまっている男の話など。身につまされる(笑)。

 藤田香織の解説がおもしろい。どんなに飲んでも酔っぱらわないという自身の哀しい経験が何とも。立ち読みして、おもしろかったら買ってみましょう。