橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

好井裕明『ゴジラ・モスラ・原水爆』

著者はエスノメソドロジー研究で知られる社会学者だが、映画にも関心をもっているようで、論文がいくつかある。本書は単行本として刊行されたものとしては、唯一の映画論である。
私もほぼ同世代だから、子どものころに怪獣映画に興奮した経験は共有している。ただ、私の場合はさほど熱心なファンではなかったし、その後繰り返し見ているわけではないので、ほとんど記憶がない。これに対して著者は、かなり熱烈なファンだったようで、しかもDVDで細部まで確認して書いているから、かなり情報量は多い。最初のころの怪獣映画は、原水爆への不安を背景に、強い批判的な社会性を持って作られていた。しかし時代とともに、その原水爆イメージは抽象化し、絵空事のファンタジーの一部として消費されるようになっていく。こうした過程を跡づけながら、被爆の現実と凄惨な体験を風化させないためにはどうすればいいのかと問いかける論旨には、深い共感を覚える。
ただし、記述はときおり映画の細部のトリビアルな矛盾や問題点を、社会学者としてではなく、一人の怪獣映画マニアとして論じていく方向へと脱線する。このことが、本書の完成度をいくぶん低めていることは否めない。これは、社会学者が映画を論じる語法としてものが、まだ完成していないことのあらわれでもあろう。

ゴジラ・モスラ・原水爆―特撮映画の社会学

ゴジラ・モスラ・原水爆―特撮映画の社会学