橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

藤井淑禎『御三家歌謡映画の黄金時代』

これも、昔のB級映画を扱ったもの。「橋・舟木・西郷の『青春』と『あの頃』の日本」という副題があり、この三人の主演した歌謡映画を通じて、高度経済成長期の日本を振り返ろうというわけである。
著者によると、歌謡映画では人気歌手が普通の若者を演じ、その平凡な日常が描かれていることが多い。だからこそ、高度経済成長期の時代や社会が的確に描かれ、「結果的に、激動期の見事な証言者・記録者となることができた」のである。この認識は、先日読んだ岡田喜一郎『昭和歌謡映画館』とも共通である。
橋幸夫吉永小百合が共演した「いつでも夢を」をはじめ、定時制高校の生徒を描いた作品は少なくないが、その背景について著者は、当時は全日制340万人に対して定時制の生徒が46万人で、定時制が1割以上を占めていたと指摘する。これは、不覚にも気がつかなかった。川崎の工場街の若者たちを描いたという、舟木一夫の映画「仲間たち」は、ぜひみたいものだ。
たいへん面白い本なのだが、本としての完成度は今ひとつ。叙述の順序がけっこう混乱していて、話が前後することが多い。年表や統計集などについて、いちいち出典を書くのもいかがなものか。いい本だけに、気になった。