橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

芸術・文化

「卯波」と鈴木真砂女

川本三郎の新著を読んでいて、銀座の居酒屋「卯波」のことを思い出した。かつて銀座一丁目の細い路地にあった居酒屋で、俳人の鈴木真砂女さんが営んでいた。九〇歳を超えるまで店に立ち続けていたはずである。和風シュウマイと鰯の叩き揚げが名物で、客には…

小林信彦『日本の喜劇人』

これは、まぎれもなく名著である。ロッパ、エノケンから書き起こし、森繁、トニー谷、フランキー堺、クレージーキャッツと書き進み、萩本欽一、たけしにまで至る喜劇・大衆演劇の昭和史は、天衣無縫、自由自在。あとがきで色川武大が「新鮮且つ鋭敏、完璧で…

佐藤忠男『大衆文化の原像』

アカデミックな研究の世界とは異なり、映画評論の世界では、国際的な評価というものが形成されにくい。大多数の評論家は、自国映画と外国映画を二つの柱とするわけだから、同じフィールドで活動しているとはいえない。英語圏以外の評論家の著作が、他国で読…

佐藤忠男編著『ドキュメンタリーの魅力(日本のドキュメンタリー1)』

佐藤忠男の編著で、『日本のドキュメンタリー』という五巻本、さらに三枚組のDVDボックス三巻が、岩波書店から発行されることになったとのこと。本書は、その第一弾である。 佐藤忠男の概説は、予想通りの手堅い内容だし、吉岡忍と森まゆみの秀作紹介も、た…

藤井淑禎『御三家歌謡映画の黄金時代』

これも、昔のB級映画を扱ったもの。「橋・舟木・西郷の『青春』と『あの頃』の日本」という副題があり、この三人の主演した歌謡映画を通じて、高度経済成長期の日本を振り返ろうというわけである。 著者によると、歌謡映画では人気歌手が普通の若者を演じ、…

岡田喜一郎『昭和歌謡映画館』

昔のB級映画ものを、もう一冊。本書は、エノケン、美空ひばり、石原裕次郎、小林旭などが主演し、主題歌を歌った映画を中心に、昭和20年代から40年代までの、さまざまな歌謡映画を紹介している。400ページを超えるボリュームで、このテーマに関しては、当面…

樋口尚文『ロマンポルノと実録やくざ映画』

最近、昔のB級映画が静かなブーム、なのだろうか。多くはビデオソフト化されていないのだが、衛星放送やケーブルテレビが普及して、比較的かんたんに見ることかできるようになったことから、ガイドブック的なものも求められるようになっているのかもしれない…

木下昌明『スクリーンの日本人』

映画評論の世界には、もともと反体制的感性の持ち主が少なくないけれど、これほどはっきりと反体制カラーを前面に出し、しかも何冊もの著書のある人は、今では珍しい。「日本映画の社会学」という副題のつく本書は、さまざまなジャンルの多くの映画を扱っては…

廣澤榮『私の昭和映画史』

先日読んだ『日本映画の時代』が面白かったので、こちらも読んでみた。タイトルからみると、自身の体験をまじえながら、昭和映画史をある程度包括的に論じたもののようにみえるが、実際には半分以上が映画界に身を投じる前の生い立ちの記で、後半部分も、ほ…

小林信彦『映画を夢みて』

小林信彦の、主に若い頃に書いた映画評論集で、初出は一九九一年。これは九八年に出た文庫版である。小林信彦は一九三二年生まれだから、かろうじて戦前・戦中を経験した世代であり、戦争直後から五〇年代の映画を、リアルタイムな経験にもとづいて語ること…

廣澤榮『日本映画の時代』

著者は、黒澤明、成瀬巳喜男、豊田四郎などの助監督を務めたあと、シナリオライターとして活躍した人物。シナリオライターとしては「サンダカン八番娼館 望郷」などを手がけているが、さほど多くの作品があるわけではない。しかし戦後映画史の生き証人として…

佐藤忠男『日本映画史・全4巻』

この世には、乗り越えることの不可能な著作というものがしばしば存在するが、本書などその典型というべきだろう。 合計すると、約1600頁。1巻から3巻までが年代別の通史で、19世紀の単純な写し絵から説き起こして、2005年までをカバーしている。とくに戦時下…

太田和彦『シネマ大吟醸』

居酒屋めぐりが好きな者にとっては、神様みたいな存在になってしまった太田和彦だが、実は日本映画通でもあることはあまり知られていない。 この本は、戦前の映画を中心に、一九五〇年代前半までの日本映画を論じたもの。居酒屋を論じるときの観察眼、そして…

たくきよしみつ『デジカメに1000万画素はいらない』

デジカメの不毛な画素数競争が止まらない。コンパクトカメラのくせに1000万画素などという、無駄なスペックのカメラが横行している。 デジカメの標準的なCCDは数ミリ角しかない。画素の大きさは、1.7マイクロメートル程度である。可視光の波長は0.6マイクロ…