橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

川西玲子『映画が語る昭和史』

私が日本映画でいちばん嫌いなのは、女性のレイプシーン、そして女が男に理由もなくすべてを捧げるシーンである。評判のいい映画でも、こういうシーンがあると分かっている場合には、見る前に気が重くなる。こんな感覚を持つ人はいないのかと思っていたら、ちゃんと書いてある本があった。「青春の門」(浦山桐郎・1975年)と原作について、「難点は男の成長物語に付きものである『性の目覚め』のエピソード。……。この小説は、女性が読むということを前提にしていないのだろうか」という。さらに反体制・自主上映で評価の高いATG映画について、「女性の人権という視点がない。女性が脱ぐことが反権力であり、表現の自由だった時代の反映である」と評する。まったく、その通りだ。
という本筋でないところを評価するからではなく、この本は現代日本の映画評論では最高のもののひとつだと思う。戦前期の大衆文化と女性、アジア・太平洋戦争、戦後の民主化、経済成長、高度成長後の消費文化など、映画に描かれた幅広い問題を論じながら、その背後には常に、女性の自立、日本とアジアの関係、格差と階級の存在への視点が貫かれている。社会学関係者で日本映画が好きな人は、絶対読むべきである。

映画が語る昭和史 いつもヒロインたちがいた

映画が語る昭和史 いつもヒロインたちがいた