橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

橋本直樹『ビール・イノベーション』



 著者は、キリンビールで開発研究所長、ビール工場長を歴任した人物。それだけに、ビール醸造の科学的側面について知り尽くしているのは当然だが、ビールの歴史やビール文化についての知識も相当なもので、実は本書も、半分以上は古代オリエントから始まるビールの歴史にあてられている。内容は豊富で、日本のビールの歴史についても、文学作品や映画などもまじえながら幅広く論じている。

 現代のビール醸造やビール市場についての記述では、ときおり大メーカー関係者としての利害にもとづく記述が現れるのは、仕方がないところ。発泡酒や第3のビールについて、世界のトップ水準をゆく日本の醸造技術が可能にした製品であって、けっしてコピー食品ではないと言い張る個所があるが、これは無理な強弁というものだろう。アメリカのマイクロブルワリーや日本の地ビールについて、「需要は限定的でごく少ないもので終わった」と断じている点も、地ビール好きとしては若干の怒りを感じる。

 しかし、ビールの歴史の教科書として十分な内容を備えているし、歴史を通観した結論として、ビールを「近代物質文明社会の酒」と規定するところも、うなずける。ビール好きなら手元に置いておく価値があるといっていい。


ビール・イノべーション (朝日新書)

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