橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

松田奈緒子『スラム団地』

団地つながりで、マンガを一冊。福岡の団地で子ども時代を過ごした著者が、当時の思い出を綴ったコミックエッセイである。時代は一九七〇年代としか書かれておらず、著者の年齢も定かでないため、いつの出来事か正確にはわからない。しかし、小学校六年のクリスマス会のエピソードに「ノストラダムスの大予言」が出てくるので、一九七三年または七四年だろう。
ちょうど、団地が新中間階級中心の新しい住まいから、低所得者中心の庶民の住まいへと変化しつつあった頃ということになる。このことを反映して住民も、多様である。著者の場合は、父親が借金を抱えていて貧乏ぐらし。母子家庭も多く、また自宅をお菓子の卸売の倉庫兼用にしていて、遊びに行った著者が食べたお菓子の代金を要求するような親もいる。かと思えば、高学歴の新中間階級世帯もあって、遊びに行った著者はあまりの落差に打ちのめされたりする。当時の団地が、階級的にみて複合的だったことが分かる。
当時の団地生活が、生々しく鮮やかに描かれていて、ある種の資料的価値すら感じる。原武史さん、ぜひ著者と対談してみてください。

スラム団地

スラム団地