高見順『敗戦日記』
高見順は膨大な量の日記を残したが、このうち1941年1月から51年5月までの日記が『高見順日記』全8巻9冊として刊行されている。さらにこのうち、1945年の分を編集したのが、本書。元の日記が、この版では大幅に省略されている。途中に挟み込まれた新聞・雑誌記事の多くが削除されたり要約されたりしているほか、些細なことや雑感、単なる事実の記述などの多くが削除され、また改変されている。だから資料的価値は大きくないが、手軽に読むには重宝する。それでも、約370ページ。戦争末期から、ようやく復興の動きが目に見えてくる頃までの東京の様子を知ることができる。
高見は大酒家で、よく酔って人とトラブルを起こす。酒に対する執着は強く、何と8月14日に、鎌倉からわざわざ列車に乗って銀座のヱビスビヤホールへ出かけ、五杯飲んでいる。本来は特別なビール券が必要なのだが、労務報国会のコネで飲めたらしい。そして戦後は、8月28日には同じビヤホールに出かけているが、この時は営業がなく飲み損なっている。10月のある日などは、人の紹介で新橋の仕舞屋へ行き、刺身、あわび、えびの天ぷら、牛肉のすき焼きなどを食べている。ヤミ市についての記述もいくつかあるが、これは元の日記のほうがはるかに詳しい。
高見は精神的に不安定で、すぐに激高し、そして自虐する。「封建的だね。抹殺すべき作家だね」「どうにも手のつけられない俺だ。助けてくれ」。といいつつも、鎌倉文庫に精力的に取り組むなど、けっこうたくましい。文庫版が現役で、古書も多数出まわっている。
- 作者: 高見順
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/07/26
- メディア: 文庫
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