橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

斎藤美奈子『文学的商品学』

何度も書くが、私が逆立ちしてもかなわないと思っている書き手の一人が、斎藤美奈子。博識で毒舌。才気走った文体。毒舌以外、とても太刀打ちできない。本書は、この著者としては久しぶりという文芸評論だが、タイトルにある通り、「商品」に着目している。たとえば、「アパレル泣かせの青春小説」「飽食の時代のフード小説」「ホラーの館 ホテル小説」「平成不況下の貧乏小説」といった具合だ。
ありとあらゆるジャンルの小説を乱読し、しかも頭に入っていないと書けないというような指摘が、ズバッ、ズバッと続出するのが、この人のすごいところだ。たとえば庄司薫の「薫くん四部作」を取り上げて、「これほど若い連中の文体に影響を与えた小説もありません。村上春樹をはじめとする今般の『青春小説』のルーツはすべてここににあるといっても過言ではありません」。古今の貧乏を主題にした小説を取り上げながら、「このうち労働の部分を問題にしたのがプロレタリア文学で、消費生活の懊悩を描いたのが私小説だといってもいいでしょう」。なんとも小気味がいい。文学にほんの少しでも興味があったら、読む価値がある。

文学的商品学 (文春文庫)

文学的商品学 (文春文庫)