橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

高杉良『生命燃ゆ』

会社の事業に命を賭ける企業戦士、というのは誉められたものではないけれど、これが理系の技術者となると、どういう訳か抵抗感が薄れる。「会社のため」というより、「産業の発展のため」、場合によっては「社会のため」という性格が多少なりとも強くなるだろうか。「プロジェクトX」の成功も、おそらくこれによるもので、これが文系の事務屋だと、接待とか脅しとかあの手この手の包囲網とか、陰湿なドラマか「社長シリーズ」みたいな喜劇にしかなりそうにない。
この作品は、大分市にある石油化学コンビナートの建設に携わった実在の技術者を主人公にしたもの。なかなかの人物だったようで、仕事熱心なだけでなく、高卒・高専卒の職員たち、さらには地元の高校生にまで、技術の基礎を教え込もうとする姿勢には感心する。それにしても、ここまで自分の健康に無頓着というのは、やはり会社のシステムにも問題があるといわざるを得まい。最期のシーンは、なかなかに感動的。企業小説としては、万人向けの傑作といっていいだろう。

生命燃ゆ (徳間文庫)

生命燃ゆ (徳間文庫)